キミと歌姫はじめました!
消えないノイズ
「っ、はぁぁぁぁ!?!?!?!
二週間後のライブまでの新曲!?無理でしょ!!!」
炭酸の残ったコーラを盛大に吹き出しながら、
七瀬有栖はテーブルから身を乗り出した。
「ちょ。有栖汚い」
向かいに座る成早零が、苦笑しながらティッシュを差し出す。
宝石のように綺麗なオッドアイが細められた。
「だって無理じゃん!急すぎるって!!」
「まあ、急だね」
「まあ、で済ませないで!?!?!」
有栖は顔を上げ、勢いよく身を乗り出した。
「ライブだよ!?しかも初!で二週間後!」
「うん」
「新曲いるんでしょ?」
「いるね」
「無理じゃん!!」
即答だった。
その勢いのまま机に突っ伏す。

――七瀬有栖と成早零。

この幼馴染二人は、動画投稿サイトで活動する音楽ユニット
「LC_404」である。
正体不明の大人気ボーカリスト『Iris』
全ての音を創り出す天才作曲家『Noir』
顔出しNG、ライブ未経験。
それでも『最強』と呼ばれ、
投稿開始からたった二年でチャンネル登録者数は五万人を超えている。
そんな2人に届いたのが――初ライブ決定の知らせだった。
しかも、本番まで残り二週間。
とんでもない無茶振りである。
「いやほんと無理だからね!?時間足りなすぎるから!!」
有栖は顔だけ上げて抗議する。
「今から曲作って、歌詞書いて、
練習してって……え、寝る時間ある?」
「ないかもね」
「ほらぁ!!」
再び机に突っ伏す音が響いた。少しの沈黙。
その向こうで、零は変わらず落ち着いた声で言う。
「でもやるしかないでしょ」
「いくらなんでも無茶だと思うんですけど!!」
「じゃあやめる?」
ぴたりと、有栖の動きが止まる。
ゆっくりと顔を上げた。
「……やめる、って」
「ライブ、断る?」
零の表情は穏やかなままだった。
でも、その目はまっすぐ有栖を見ている。
「……それ、は……」
言葉に詰まる。
やりたくないわけじゃない。
むしろ、やりたい。
でも――怖い。
失敗したらどうしよう。
今までの全部が崩れたらどうしよう。
ぐるぐると考えが回る。
「……できる気しないもん」
小さくこぼした本音。
その瞬間、零は少しだけ目を細めた。
「できるよ」
「だからなんでそう言い切れるの......!」
思わず声が大きくなる。
「時間ないし!ライブとか初めてだし!
新曲とか絶対間に合わないし!」
言いながら、自分でも分かっていた。
これはただの言い訳だ。
怖いから、逃げたいだけ。
それでも止められなかった。
「私、失敗したくないもん」
ぽつりと落ちた言葉。
その場の空気が、少しだけ静かになる。
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