かきつばた

1

ゴールデンウィークが明けて一週間。
学校はすっかり日常に戻っていた。
六限目、古文。
窓の外からは、五月の爽やかな風に乗ってテニス部の掛け声が聞こえてくる。

「……はい、注目。伊勢物語の『かきつばた』の段ですね。頭文字を繋げると花の名前になる『折句』になっています。雅ですねぇ」

先生の、お経みたいな眠気を誘う声。
私の頭の中は、さっきから「八ツ橋」のことでいっぱいだった。
ニッキの香りと、あのモチモチした生地。
あー、お腹空いた。
放課後、コンビニでイチゴ大福でも買おうかな……。

その時だった。
カサッ、と乾いた音を立てて、後ろの席から小さな紙クズが投げられた。
私のノートの上に、無造作に転がったそれは、四角く折られただけの素っ気ないメモ。
(……え、なに?)
先生の目を盗んで、机の下でこっそり開くと、そこには謎の文字列があった。


カサビアン
キリング・ミー・ソフトリー
通天閣
ハマ・オカモト with
タイオ・クルーズ


「…………は?」
思わず変な声が出そうになった。
なんだこれ。意味がわからなすぎる。
でも、よく見ると一応、『かきつばた』になってる。
(……なんなの、一体)

振り返ってみると、斜め後ろの井上くんと目が合った。
彼は教科書を立てて顔を半分隠しながら、こっちを見て楽しそうにニヤニヤしている。
普段からグループでよく一緒に遊んだりしているけれど、さすがに意味不明だ。
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