経済学部一の人気者が同じ学部の大人しい女の子に一目惚れした理由│Quiet Strength×Soft Strength
 ご馳走様でした…。と、手を合わせて呟いた。そしてちら、と対面の司を見る。置き去りにされちゃったけれど何も話せないまま自分が食べ終わるのを待たせてしまった。大丈夫かな。と、肩を竦めたら司の声が聞こえてくる。

「あの…この前、立花と話してた綾さん…だよね?」

 その言葉にあれ? と思った。自分は覚えているけれど向こうが覚えているとは思わなかった。

「はい。瀬戸綾音です。ご挨拶が遅くなりました」

「あ、綾さんじゃなくて綾音さんなのか。…いや、瀬戸さんだよね。ごめんなさい」

「い、いえ。全然。綾でも綾音でも大丈夫です」

「え? そう? …じゃあ、綾さん」

「…はい」

 その声に、ほぼ初対面の異性なのにほっとした。穏やかで優しい人だな。凄く丁寧に話してくれているのを感じる。

「俺、上野司です」

「はい。上野さん…」

「司で良いよ」

「は、はい。司、さん…?」

 それは何か…変? と、二人は首を傾げる。

「じゃあ、綾ちゃん」

 自分に合わせて呼び方を変えてくれたと分かってほっとした。

「あの、はい。つ、司君」

 ちょっと照れるけど安堵の方が大きい。それに最初からそう呼ぶのならすぐに慣れるだろう。顔を見合わせて、ふふふ、と二人で笑った。

 それからとりとめのない話をした。誰に聞かれても困らないような勉強の事や世間話程度の舞の話。お互いの話は然程しなかった。

 けれど二人で二時間近く、端的に言えば楽しく過ごした。その後授業を受けて舞に拉致された。この日にあったことは、たったそれだけである。
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