この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
「美味しい!!」
「こんなに大きなお肉、初めてだ!!」
「俺も、俺も!!」

 トビーが触れ回ってくれたおかげか、食堂はあっという間に長蛇の列が出来た。主に子供の姿が多く、最初は半信半疑で並んでいた彼らもスープを受け取ると、満面の笑みを見せた。

「はい、並んで、前を押さないで」

 雇った人たちも初日ながらも、一生懸命に働いてくれた。
 私はこの食堂に笑顔が広がっていく様子を椅子に座り、ずっと眺めていた。

「シャルロット様」

 ロゼールがいそいそと近づいてきた。

「お疲れでありませんでしょうか?」

 私を気遣う言葉にクスリと笑う。

「それが全然大丈夫よ。ここにいる皆の笑顔が見られて、疲れなど吹き飛んだわ」

 皆が美味しいスープを食べて笑顔になっている。これで今日一日、幸せに過ごして欲しいな。

「それでね、ロゼール。今後のことなのだけど――」

 私はこの食堂の未来について話し合った。

「従業員に払う賃金、主に経理に詳しい人間を雇って欲しいの。あとはここのまとめ役となる人物を一人立てて欲しい」

 これから食堂はもっと忙しくなるだろう。今日は始まりの日に過ぎない。

「あとは市場に行き、一番大きな寸胴鍋を買ってきて。今日はあの鍋で間に合ったけれど、明日からは話が広まり、もっと忙しくなるはずよ」
「わかりました」
「人手が足りなければ、もっと雇ってもいいわ。賃金は私が出すし、食糧は定期的に屋敷に取りに来るようにして。減ってきたら補充しておくよう、南部の父にお願いするから」

 テキパキと指示を出す。

「私もなるべく顔を出すようにするけれど、私が指示しなくても、回るようにしてちょうだい」

 あくまでも出資はするが、運営は採用した人達で回すよう、お願いした。

「シャルロット様は――」

 ロゼールは真剣な表情を向ける。

「どうしてここまで、してくださるのですか?」

 ロゼールの問いかけに一瞬、きょとんとした。

「私は自分ができることをしただけよ」

 偽善者と思う人もいるかもしれない。それでも――。

「食材もあるし、お金もある。だったら必要としている人たちに与えた方がいいじゃない」

 どうせ私一人では使いきれないのだから、と付け加えた。

「ですが北部の貴族でさえ、ここまでのことをしてくださった方はいませんでした」
「そう? だったら南部の貴族の気まぐれとでも思って」

 私はくすりと笑うと椅子から立ち上がる。

「そろそろ、明日の仕込みもお願いしないとね。その前にメニューも決めないと。お皿も洗って明日の下準備もして、大忙しね」

 活気のあふれる職場を見て微笑んだ。

 ***

「皆さん、初日はお疲れさまでした」

 周囲をぐるりと見回す。疲れた様子もあるが、皆がいい顔をしていた。

「明日からもよろしくお願いしますわ」

 ドリーに視線を投げると、彼女は静かにうなずいた。

「では、本日の賃金を渡します。初日なので手渡しです」

 経営を任せられる人物を雇うまで、賃金は手渡しにすることにした。その方がやる気も出るだろう。

「えっ、こんなに!?」
「ええ、本当にこんなにたくさん貰っていいのですか!?」

 皆が賃金を受けとり、驚愕している。

「いいのよ。今日は記念すべき一日目ですもの。これからも頑張ってくれたら、それでいいわ」

 にっこりと微笑む。

「明日からもまた忙しくなるだろうけど、よろしくお願いするわ。私もなるべく顔を出せるようにするから」

 皆の顔を見て告げた。

「じゃあ、ドリー。帰りましょうか」
「はい」

 帰宅する私たちを皆が店の外まで見送りに来てくれた。

「ありがとうございました!」
「ありがとうございます!!」

 皆が口々にお礼を述べた。

「あなたは南部が遣わしてくれた女神様のようです」

 トビーがキラキラと輝く眼差しを向けてくるから、噴き出してしまう。

「そんなんじゃないわよ。私が女神だなんて罰があたるわ」
「いいえ、あなた様ほど慈悲にあふれた方はいままでいませんでした」

 トビーに笑って手をふる。

「ありがとう、これからも頑張るわ」

 見返りを求めたわけではないが、感謝されるとやはり嬉しいものだ。

 そして屋敷に到着した頃には日は沈み、あたりはすっかり暗くなっていた。
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