この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
「シャルロット、綺麗よ」

 母は私の手を取り褒め称えるが、心なしか涙ぐんで見える。

 式が終わり、これから宴が始まる。だが、両親、そして姉が参加することはない。

 なぜなら、ここから南部に帰るのは、三日ほどかかる。昨夜遅くに北部に到着し、今日はそのまま南部に帰宅となる。忙しい両親が一週間も、屋敷を留守にするわけにはいかないからだ。

 家族はわずか一時間もない式に参列するためだけに、遠路はるばる来てくれた。

「本当に大丈夫? あなた一人をこの北部に置いていくだなんて……」

 長女のターニア姉さまの表情が曇る。

「大丈夫よ、お姉さま。きっと優しくしてくださるわ」

 家族に心配をかけてはいけないと、わざと明るく振る舞う。

「そうね。きっと、あなたならやっていけるわ。だって、私の自慢の妹ですもの」
「ふふっ。お姉さまこそ、元気でやってくださいませ」

 次に会えるのはいつになるのだろう。お互い、思ってはいるが口には出さない。
 そう簡単に帰れないと思っているからだ。

 その時、側で聞いていた父がクシュンとくしゃみをした。

「お父さま、大丈夫ですか?」
「ああ、北部は思ったよりも冷えるのだな」

 そう言った父の鼻は寒さからか、赤くなっていた。

 陽気な気候の南部で育った私たちからしたら、北部の気候に驚くのも無理はない。
 でも、もっと驚くことに、冬本番はこれからだという。

 雪が城を覆いつくし、吹雪もあるという。雪があまりにも多く降る場合は、街に住む人々も城に仮住まいするのだとか。カロン侯爵家が城塞に囲まれているのは、魔物の侵略を防ぐと同時に、雪の対策でもあると聞く。

 大きさだけなら、王城に引けを取らないと思えた。

「そうね、どのぐらい雪が降るのかしら」

 顔を上げると教会のステンドグラスに雪がチラチラと舞い散っているのが見える。

 この景色も、いつかは普通に思えるのだろうか。

「さあ、お父さま、お母さまにターニアお姉さま。はるばる遠い地までありがとう。気をつけて帰ってね」

 私はふんわりと微笑んだ。

「シャルロット……」

 涙ぐむ母はなにかを言いたげだ。だが、私はゆっくりと首を横に振る。

「なにも心配いらないわ。無事に王命を果たしてみせるから」

 不安げな母の手をギュッと握りしめた。

「それにドリーもいるのだから、大丈夫よ」

 ドリーは南部から北部まで私についてきてくれたメイドで、とても頼りになる存在だ。

「季節が巡って春になったら、南部に里帰りをするかもしれないわ。ローズお姉さまにも会いたいし」

 二番目のローズお姉さまは去年嫁いで、あと四か月後には母親となる。出産前にセバスティア家に帰ってくることになっていた。

「ローズお姉さまの赤ちゃん、とっても楽しみだわ」

 北部で無事に産まれることを祈っていると伝えると、空気が和らいだ。

「だから、そんなに心配しないで」

 家族に力強く言い聞かせる。

 その後、家族はイザーク・カロン侯爵に挨拶をすると、南部に戻って行った。

 ***

 そして式の後の宴が開催された。

 酒が入り、皆が陽気になってはしゃいでいる。
 私は上座の席に座り、周囲を観察していた。隣に座るのはイザーク・カロン侯爵。

 さきほど夫婦になった私たちだが、会話の一つもない。
 彼はこの結婚をどう思っているのだろう。

 広間に北部の貴族が集まり、次々と祝いの言葉を投げかけられるが、ぼんやりしながら聞いていた。

 やがて周囲は酒が入り、にぎやかになってきたところで、一人のメイドが近づいてきた。

「準備をいたしましょう。こちらにどうぞ」

 彼女に言われるがまま、指示に従う。
 案内されたのは浴場だった。北部のメイドは三人いたが、皆が無言で側に控えている。

「ドリーを呼んでくださるかしら?」

 しばらくするとドリーがやってきた。

「今日のところは慣れた彼女にお願いするわ。皆は下がってちょうだい」

 ドリーと二人きりになったところで、湯につかる。

「ふぅ……」

 安堵からか思わず息を漏らした。

「お式はどうでしたか?」

 ドリーが興味深そうに聞いてくる。

「問題なく終わったわ」
「それは良かったです。イザーク様はどうでしたか?」
「そうねぇ……」

 私は天井を見て、湯に髪を浸けながら考える。

「あまり私に興味はない、って感じだったかしらね」

 式の間に目が合ったのは二回。宴の時は目も合わなければ、話をふられることはなかった。

 歩み寄ろうという気遣いはゼロに感じられた。
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