この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
 クスッと声が漏れてしまうと、イザークが顔を上げた。

「そんなこと、気になさらないでください」

 私は思わず手を伸ばし、彼の頭に触れる。

「私はただ、こうやって様子を見に来てくださっただけで、じゅうぶんですわ」

 そっと彼の頭を撫でたところでハッとする。

 これでは小さい子にするみたいではないか。

 今さら引っ込みがつかなくなってしまったので、そのまま彼の頭を撫で続けた。

 お、怒っているわけではないわよね……?

 ドキドキしながらも彼の頭に触れたあと、そっと手を離した。

「……今後はもっと気を配ると誓う」

 彼がぽつりとつぶやいたので、私は笑顔になる。

「ありがたいですわ」

 どうやらイザークは私と歩み寄ると決めたようだ。うふふと笑った。

「今日はゆっくりしているといい」
「あ、でも、私、街へ……」

 始めたばかりの食堂がどうしても気になる。

「ダメだ。昨夜倒れたのだから、部屋で様子を見たほうがいい」

 イザークは頑として譲らなかった。

「街でなにか必要なら、ロゼールに言えばいい。あとであいつを寄こす」

 まあ、ロゼールを寄こしてくれるのなら……。渋々だがイザークの案を受け入れることにした。

「朝食も部屋で摂るといい。あとで届けさせる」

 イザークは椅子から立ち上がる。

「じゃあな」
「待って」

 そのまま部屋から出て行こうとしたので、呼び止めた。

「ありがとうございます、いろいろと」

 私が改めてお礼を言うと小さく、「ああ」と聞こえた。そのままイザークは振り返らず、退室した。

 だが去り際に見えた横顔は真っ赤だった。

 なんだ、照れ屋なのね、イザークって。

 クスクスと笑っていると入れ違いでドリーが顔を出した。

「おはようございます、シャルロット様」
「おはよう、ドリー」

 ちょうど良かった、昨日のことを彼女にも謝らなければ。

「昨日はあなたに迷惑かけたわね」
「いえ、とんでもございません!」

 ドリーは大げさに両手を振った。

「もとはと言えば、果実水を取りに、あの場を離れた私が悪かったのです。戻ってきたら、イザーク様とお話をされていたので、声をかけそびれてしまいました」
「私、あのまま湯あたりしたみたいなんだけど……」
「はい、イザーク様の慌てる様子が外にまで聞こえましたので、助けに向かいました。赤い顔でぐったりとしていらして。まずは場所を移動し冷やしました」

 それは二人に迷惑をかけてしまって、大変だったはずだ。

「着替えは私がさせましたので、ご安心ください。ですが、このお部屋まで運んでくださったのはイザーク様です」

 そうだ、この部屋に寝ていたということは、運んでくれたということだ。

「その後も、深夜に何度か様子を見に来られていましたよ」

 全然気づいていなかったし、イザークもそんなことを言っていなかった。寝顔を見られていたのだとしたら、恥ずかしい。

「湯あたりしたシャルロット様を見て『いつもこうなのか?』と質問してきましたし。南部にいた時から、たまに湯あたりされていましたよね」

 考え事に集中できる入浴が大好きなので、つい長湯してしまう時があった。

「そこでちゃんとお伝えしました。南部の秘宝と呼ばれるシャルロット様なので、くれぐれも大事に! 宝石だと思って扱って欲しいと!」
「それはおおげさだわ」

 ドリーは時折過保護なので、苦笑する。

「それに、倒れたシャルロット様を見て、いたく反省している様子でしたよ」
「そんな……彼のせいじゃないのに」
「ふと思ったのですが、イザーク様って常に男に囲まれていませんか?」

 ここに来てからのイザークを思い浮かべる。

「確かにそうかも」

 騎士団の仲間や部下たち、いつも行動を共にしているのは男性だ。

「だから、女性の扱いをあまり知らないのではないですか? 湯あたりしたシャルロット様を見て、自分たちとは体つきも体力も違うと、思うところがあったのではないでしょうか」
「そうなのかしら?」
「姉妹もいらっしゃいませんし。シャルロット様にどうやって対応したらいいのかわからず、混乱していたんじゃないでしょうか」

 言われてみれば、それも一理あるかもしれない。
 日頃から体を鍛えている騎士たちといつも接しているし。
 彼らは丈夫な体だし、湯あたりなどしないのかもしれない。

「でも、自分たちとの違いを実感して、ちょっと対応が変わるかもしれないですね。優しくなるんじゃないですか」
「そうだったら嬉しいのだけど」

 冷たく突き放されるような言葉も、私の扱いに困っていただけ、だったらいいな。徐々に慣れていけば、彼の本心が見えるかな。

「まあ、でも、だからと言って最初の失礼な態度の免罪符にはなりませんが!」

 ドリーは腰に手を当て、口を尖らせた。

「ドリーったら。厳しいわね」
「これからどんな態度を取るか、じっくり見させてもらいましょう」

 ドリーから監視されているのなら、下手なことはできないわねと、クスリと笑った。
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