この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
「まあ、イザーク様。いくら奥様が心配だからといっても、診察はまだ終わっていませんのよ」

 セレナが指摘する横から、ドリーがひょっこり顔を出した。

「申し訳ございません。扉の前で待たれていましたので、寒いだろうと思いまして中にお連れしました」 

 部屋の前でわざわざ待っていたというの? イザークが?

「それでどうだった? 診察の結果は」

 イザークが真剣な顔で詰め寄ったので、セレナは苦笑した。

「大丈夫です。基本的に悪いところはありません」

 セレナが告げるとイザークはホッとしたようで表情がゆるんだ。

「ですが、言わせていただくと――」

 指をビシッとイザークに突き付けた。

「ここの北部は南部の方からみれば、初めて感じる気候でしょう。北部の人間にはこの気候が当然であっても、奥様のお体はとてもびっくりなさっていると思います」

 確かに北部に来て、ここまで寒いことを初めて経験した。だが、もっと寒くなるというのだから驚きだ。

「だからこそ、大事になさってくださいませ。イザーク様が日頃接している方々とは違いますから!」

 セレナの勢いにイザークは若干押されている。

「ああ、わかった」

 まあ……!

 素直に返事をしたイザークに驚いた。

「まだこちらに来たばかりで、環境の変化に自分で思っている以上に負荷がかかっている時期です。肉体的にも精神的にも、です」

 セレナはカバンから聴診器を取り出しながら、イザークに向かって話し続ける。

「冬の北部は閉じこもるしかない日々が続き、鬱々として病んでしまう人も中にはいるので、よくいたわって差し上げてください」

 そしてセレナはクルッと振り返り、私に向かってニコリと微笑む。

「シャルロット様もなにかありましたら、私に相談してください。イザーク様に言いにくいこともです」
「ありがとう、セレナ」

 確かに同性である彼女に相談しやすいこともあるだろう。

「あとイザーク様、シャルロット様との体格差と体力などを考え、閨でも配慮をお願いしますね」

 これにはイザークが絶句した。

「きちんと注意をしておかなければ、シャルロット様を抱き潰しかねませんもの」
「なっ、なんてことを口にするんだ!!」

 イザークが耳まで真っ赤になって叫んだ。

「あら、大事なことですから、医師としてはっきり言わせていただきます」

 セレナは目を見開いて固まるイザークにものともせず、ズケズケと言い放つ。

「こんなにも可愛らしいシャルロット様が側にいたら、頭の中は四六時中そっち方面を考えるものでしょう。だからこそ、相手に合わせることが大事ですからね」

 でもね、セレナ。私たちはそんな関係じゃないの。

 彼が私のことを四六時中考えているなんて、あるわけないじゃない。

「さあさあイザーク様。最後の診察でシャルロット様に服を脱いでもらいますから、部屋を出て行ってくださいませ」

 イザークは無言のまま部屋から出て行った。――顔を真っ赤にして唇を噛みしめながら。

 その様子に、セレナと顔を見合わせて笑ってしまった。
 すっかりセレナと打ち解けた気になった私は、思い切って打ち明けることにした。

「あのね……」

 ゴクリと唾を飲み込み、セレナの目を見つめる。

「私と彼は……初夜もまだの関係だから、心配はいらないわ」
「はぁぁ?」

 これにはセレナが驚きのあまり目を見開き、顎を前に突き出した。

「あの、彼は私が、いえ、この結婚に納得していなかったみたいで。私に手を出す気はないって宣言されているの」

 恥ずかしいけれど、この件に関しては心配いらないと告げる。
 セレナは考え込むように顎に手を当て、真剣な顔をしている。

「――相当、こじらせているな」
「えっ?」

 ボソッとつぶやいたのち、にっこりと笑顔になった。

「いえ、イザーク様の態度を見ていると、到底そうは見えませんから笑ってしまっただけですわ」
「そうかしら」
「うふふ。無自覚なのか混乱しているのか。自分でもどうしたらいいのか、わからなくなっているのかもしれないですね」

 セレナはコロコロと笑い出した。

「ああ、おかしい。あんなに奥手だなんて。初めての感情で戸惑っているのかしら。うふふ」

 口に手を当て、笑いを堪えきれないようだ。

「あら、失礼しました」

 ひとしきり笑ったあとセレナは背筋を正す。

「長い付き合いですが、初めて見たイザーク様の姿でしたので、驚いたのです」

 セレナはなにが面白いのか、思い出しては笑っている。

「あのイザーク様がねぇ……。男に囲まれすぎて、どう扱っていいのか悩んでいるのかも」

 セレナはつぶやきながらも始終笑顔だ。

「シャルロット様、これからも見守らせていただきますね」
「えっ、ええ、ありがとう」

 診察を終えたセレナは機嫌よく帰って行った。
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