この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
 あなたが屋敷に閉じ込めるから、こうやって散策しているのよ。

 イザークが一点を見ていることに気づいた団員たちが私に顔を向けると、深々と頭を下げた。

 大人しく観戦して、邪魔するつもりはなかったのに。仕方ないわね。

 スッと立ち上がると競技場に繋がる階段から下りた。

 地面に足をつけると走って来たイザークが、いつの間にか目の前にいた。それに続いて団員たちの姿も。
 
 イザークを前にして、彼らは後方に一列で並んでいる。

「大人しく観戦しているつもりだったのだけど、邪魔してごめんなさい」
「――いや」

 イザークは小さく首を振る。

「でも、すごい迫力ね。皆さん、必死に剣を扱っていらして、素晴らしいわ」

 南部では屋敷に競技場などは造られていなかった。それだけ平和だったということだろう。

「北部の平和は皆さんの手で守られているのね」

 にっこり微笑むと騎士たちの頬が少し上がった。

「あら、それは……」

 イザークが手にしていた剣が気になった。

「ああ、これは祖父の形見の剣だ」

 ミスリルで作られた剣は柄の部分に細かな装飾と、宝石がはめ込まれている。

「素晴らしい剣ね」

 重厚な造りの剣は見るからに立派だった。私が興味深く見ていると、イザークは剣をグイッと前に突き出した。

「持ってみるか?」
「私が?」

 イザークはよかれと思って言ってくれたのだろう。好意を無下にするわけにもいかず、おずおずと両手で受け取った。

「お、重っ……!!」

 案の定、剣の重さに耐えかねて、落としそうになる。見かねたイザークが手を貸してくれた。

「重すぎですわ。これを片手で扱うなんて、すごい力ですのね」

 両手で持ってもプルプルと震えたのに、片手でなんて絶対無理だ。

「いや、すまない。そこまで重いとは思わなかったんだ」

 イザークはあたふたと動揺している。

「イザーク様、さすがに女性にその剣を持たせるのは無理です」

 見かねた騎士たちから声がかかる。

「そ、そうか。興味深そうだからいけると思ったのだが……」

 イザークは自分と同じぐらい、私に力があると思ったのだろうか。苦笑してしまう。

「私には無理ですわ。それこそ大事な剣を落としてしまっては悪いですし」

 彼が大事にしているものなら、なおさらだ。

「――こうも力の差があるんだな」

 イザークはポツリとつぶやいた。わかってくれたようで嬉しい。グッと唇を噛みしめ、顔を上げる。

「ここからはどこへ?」

 イザークの質問にゆっくりとうなずく。

「屋敷の中を見て回ろうと思いまして」
「そうか。俺が案内しよう」

 イザークは振り返ると、一列に並んでいた騎士たちに指示を出す。

「各自、トレーニングをしていてくれ。俺は少し出てくる」

 イザークの指示により、騎士たちは稽古に戻った。

「少し待っててくれ」

 イザークは私にその場で待機しているように言う。上着を取りにいったのだろう。

「ドリー、あなたも一緒に行きましょう」

 するとドリーはゆっくりと首を横に振る。

「いいえ。私は部屋に戻っています。イザーク様と一緒ならば安心でしょうし。それに二人で過ごす時間も大事じゃないですか。夫婦なのですから」

 ドリーはイザークをあまり良く思っていないように感じていたので、その発言に驚いた。

「……先日の態度を見て、少し見直しただけですよ。不器用ながらもシャルロット様を労わる気持ちがあるようなので」

 私の顔を見たドリーは心を読んだみたいだ。彼女の発言にクスリと笑う。

 ドリーがこの場を去ると、入れ違いでイザークが戻ってきた。

「行くか」

 どうしてこの人は私を案内してくれる気になったのだろう。ぼんやりと思う。

 だが好意を無下にするわけにはいかないと思いつつ、彼の隣に並んだ。
< 34 / 73 >

この作品をシェア

pagetop