この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

第四章 ネザークロウの洞窟

 数日後、昼食後に気晴らしに城内を歩く。
 広いのでいい運動にもなるし、定番のお散歩コースができた。ドリーと二人で歩きながら喋る。

「イザークにネザークロウの洞窟の話をしてみたの」
「で、どうでしたか?」
「猛反対だったわ。絶対にダメだって」
「まあ、そうでしょうね」

 私がネザークロウの洞窟に行かねばならぬ事情を知っているドリーは、肩をすくめた。

「最近、あのお方のシャルロット様に対する態度を見ていると、容易に想像つきますけどね」
「困ったわ。なにかいい案はないかしら」

 頬に手を添えて、頭を悩ませた。
 そうこうしているうちにドリーがふと思いついたように顔を上げた。

「そういえば、部屋の暖炉の薪が、もうすぐなくなりそうでした。誰かに頼んできます」

 北部はすでに肌寒く、暖炉の火がなければ、寒くて震えてしまう。

「そうね、私も一緒に行くわ」

 私もドリーについて行くことにした。

 メイドに言付けようとしていたら、廊下の反対側から歩いてくるメイド三人を見つけた。

 その中には私を嫌っているミーシャの姿もあった。

「薪ですか?」

 ドリーが近づき、薪の補充を頼むと案の定、鼻先で嘲るような仕草を見せた。

「そう、シャルロット様のお部屋に運んで欲しいの」

 感じの悪い彼女たちを前に、ドリーは感情を抑えて言葉を選んだ。

「薪でしたら外の作業小屋に積まれていますよ。好きに持っていけばいいじゃないですか」

 まるで手伝う気のないこの態度。ドリーはクッと声を漏らし、唇を噛みしめた。

「北部では薪も貴重品なんですから。そうホイホイと使われては無駄遣いですわ」
「失礼だぞ、ミーシャ!」

 本当にこの二人は仲が悪い。ミーシャの後ろにいる二人は黙っているが、同じ意見なのだろう。

「そんなに使いたいのであれば、ご自分で薪割りでもなさったらいかがですか?」

 ドリーは憤怒で顔を赤く染めている。
 やれやれと思い、二人の間に割って入る。

「その、薪割りって、私でもできるのかしら?」

 実際の作業を見たことはある。だが、私にも大きな斧を振り下ろせるのだろうか。

「ややこしくなるので、シャルロット様は黙っていてください」
「……はい」

 ドリーに叱られてシュンとして口をつぐむ。

「とにかく――」

 ミーシャはコホンと咳ばらいをすると、窓の外を指さした。

「薪ならそこにありますので」

 やはり私たちのために薪を運ぶ気など、ちっともなさそうだ。

「貴様――!」
「わかったわ、ドリー、行きましょうか」

 ドリーの肩にポンと手を置き、彼女をなだめた。
 ミーシャは腕を組み、見下すように薄く笑う。

「教えてくれてありがとう。あとは自分たちでなんとかするわ」

 一応お礼を口にすると怒っているドリーを引きつれ、その場を離れた。

「なんでシャルロット様は私を止めるんですか!?」
「だってドリーが彼女たちに、なにかしたら困るでしょう」

 ドリーの目つきが変わった瞬間、危ないと判断したのだ。

「シャルロット様は悔しくないんですか? メイドごときにバカにされて!」
「そりゃあ、面白くはないけど、ドリーが暴れた時のほうが嫌だわ」

 ドリーはグッと唇を噛みしめ、こらえた。
 ドリーが本気を出したら、彼女たちは無事で済まないだろう。

「廊下が血の海に染まったら私、失神しちゃうわ」

 冗談のように聞こえるが、あながち嘘ではない。彼女たちはドリーの過去を知らないから、あんな態度を取れるのだ。

「大丈夫よ、いざという時、ドリーは誰よりも頼りになるって知っているし」
「シャルロット様……」
「だからね、今は薪を取りに行きましょう」

 感動して目を潤ませるドリーの手を引き、外を目指した。

***

 外の小屋に大量の薪が積んであった。

「このバケツに入れて運ぶのね」

 側にあったブリキのバケツにポイポイと薪を入れると、ドリーが震える声を出す。

「お、おやめください、シャルロット様!」
「平気よ、これぐらい。二人で持った方がたくさん運べるじゃない」

 ドリーは顔面蒼白になり、私から薪を奪い取る。

「私が往復しますのでやめてください!」
「あら、それじゃあ困るわ。私だってドリーを手伝いたい」

 私が言い出したら聞かないと知っているドリーは、頭を抱えた。

 結局、押し問答の挙句、ほんの少しだけ薪を運ぶことでドリーは渋々ながら了承した。

「無理をなさらないでくださいね! 途中で重くなったら代わりますので」
「大丈夫だから行きましょう」

 ドリーは薪を山盛りにしたバケツを手に持つ。私はドリーの半分の薪を入れ、部屋に戻ることにした。
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