この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
「これでネザークロウの洞窟に連れて行っていただけますね!」

 両手を広げバンザイをして喜ぶ。どうやって彼を納得させようかドリーと作戦会議をしていたが、思わぬところで了承が取れたわ。

 イザークは口を手で押さえ、深刻な顔をしている。その表情は明らかにしまったと、後悔が浮かんでいる。

 今さら悩んでも遅いわ、はっきりと聞いてしまったもの。

「いつ頃出発します?」

 ウキウキでたずねる私とは反対に、イザークの顔は曇っている。

「……まだだ。天気を見て、準備万端にしてからだ」

 どうやら観念したようだ。すっごい不本意だといった感情が顔に現れているが、そこは指摘しないでおこう。

「まず、絶対俺の側を離れないこと。それに少しでも危ないと思ったり、魔物が出たらすぐに引き返すから、その時は従うこと」

 イザークからの禁止事項をうんうんとうなずきながら聞いていた。

「あと確認しておきたいのだが」

 イザークは両手を組み、私を真っすぐに見つめた。

「ネザークロウの洞窟に行きたい理由はなんだ」
「それは――」

 ここで言ってもいいのだろうか。私の中で迷いが出る。
 だが不確かなことを口にして期待外れな結果にならないとも限らない。ある種の賭けだからだ。

「まだ、はっきりとは言えませんが……」

 言葉を濁しながら唇を噛む。まいったな、どうやって伝えよう。

「確かに言えることは、絶対悪いようにはなりません。むしろ北部の発展に避けては通れないことかと」

 そうよ、これが成功すれば……皆が望んでいたようになる。

 イザークはあやふやな返答で納得できないと怒りだすかしら。ドキドキした。

「――わかった」

 だが、意外なことにイザークは静かにうなずいた。

「ありがとうございます」

 嬉しくなってにっこり微笑む私を、イザークはじっと見つめている。

「……俺もあんたに話がある」
「はい」

 目をぱちくりとさせ、彼からの言葉を待つ。だがイザークは口を開きかけては閉じ、視線を逸らす。

 なんだろう、言いにくいことなのかしら。

 大人しく彼の言葉を待っていると、イザークは赤い顔で咳払いした。手をソワソワさせ、かなり落ち着きがない。どうしたのだろう。

「イザーク?」

 彼の顔をのぞき込んだ。

 そんなに言いにくいことなのだろうか。目をジッと見つめるとウッと言葉に詰まり、ますます顔を赤くする。

 唇を噛みしめ、背中は反り返っている。
 やがてフイッと視線をあさっての方に向ける。

「――いい。また今度にする」
「わかりました」

 気になるが、無理やり聞き出すのも良くない。彼から言ってくるまで待とう。

 その時、扉がノックされ、ドリーが戻ってきた。

「ドリー。やったわ、イザークからネザークロウの洞窟に行く許可を得たわ」

 嬉しくなって、ドリーに近寄った。

「良かったです、シャルロット様」
「これもドリーが素晴らしい力を見せてくれたおかげよ」

 ドリーは謙遜して微笑みつつも、イザークに頭を下げた。

「イザーク様、私もネザークロウの洞窟に同行しますこと、お許しください」
「いいだろう」

 もちろん、私としてはそのつもりだった。

「やったわね、ドリー」
「ええ、先ほどのホーングリズリーの件といい、北部の騎士だけではあてになりません。シャルロット様をお守りするのは私です」

 ドリーの皮肉にイザークの眉がピクリと動いた。 

 バチバチと見えない火花が散っているんじゃないかと思うほど、二人は威嚇しあっている。

 確かにあの時、すぐさまドリーが反応してくれたから助かった。険悪な空気が流れ始めたので、努めて明るい声を出す。

「まあまあ、皆で行きましょうね」
「ええ、シャルロット様」
「そうと決まれば準備をしなくてはね」

 ウキウキと声をかければイザークの「遊びじゃないんだからな」という声が聞こえた。
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