この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
 イザークと約束をして二週間後、ネザークロウの洞窟に行く日が決まった。
 イザークとロゼールと合わせて五名の騎士に、私とドリーが同行する。

 定期的にネザークロウの洞窟に異変はないか、確認して回っているそうで、腕利きの者だけ選抜して行くそうだ。

「だが、今回は入り口のみの確認で終わらせる」

 イザークはこの案を譲らなかった。

 他の騎士たちが、南部のお嬢さまのわがままに付き合わされている、といった感情を持っていないかドキドキしたが、意外に好意的だった。騎士団がどのぐらい危険な目にあいながらも、北部を守っているのか知りたい等、うまくイザークが説明をしてくれたのだろう。

「行くぞ」

 イザークがスッと出した手を取る。
 ギュッと握りしめると、イザークは口を固く引き締めた。

 ドリーはロゼールと共に馬に乗り、ネザークロウの洞窟を目指した。

 ***

 やがて山のふもと、沼地にぽっかりと大きな穴の開いた、洞窟が見えた。

「ここがネザークロウの洞窟……」

 うっそうとした雰囲気があり、息をのんだ。

「ネザークロウの洞窟の奥は瘴気が漂い、とてもじゃないが近づけない。瘴気にあてられ、狂ってしまうと言われている」

 皮肉なことに洞窟の奥から採掘できる結晶は純度が高い。かなり市場価値があり、今でも一攫千金を狙って、ネザークロウの洞窟に挑む者があとをたたないそうだ。

「――だが、戻ってこられる奴はわずかだ」

 イザークの台詞がネザークロウの洞窟の厳しさを物語っていた。

「奥に進むと魔物の住みかとなっている」

 イザークの発言にごくりと喉を鳴らす。

 やがて洞窟の入り口付近に近づくと、馬から下りた。

 この奥に――。

 ふらふらと吸い寄せられるように近寄ると、グッと肩がつかまれた。

「おい! 危ない!!」

 イザークが目を吊り上げ、私の行く手を阻む。

「大丈夫です、もう少しだけ……」

 イザークの手を振り払い、近づく。中が暗くてよく見えない。目を凝らしていると、ドリーがランタンを手にして側に寄って来た。ドリーが手を掲げると、光が周囲を照らした。

 洞窟内は一定の間隔で灯りがともされているようだ。

「無断で洞窟に足を踏み入れる奴が後を絶たない。洞窟内はかろうじて灯りがあるだけだ。どこから魔物が出現するのか、わかったもんじゃない」
「奥まで進んだ方はいますの?」

 イザークは首を横に振る。

「あきらめる人間が大半だ」

 天井から苔が垂れ下がり、一見して緑に覆われている洞窟は多くの生命を飲み込んできたのだろうか。

 さて、ここからどう対応しようか――。

「シャルロット様、危ない!!」

 怒声が響くと同時だった。体がギュッと包まれ、身動きができないと思ったのは。

 そのまま横に倒れ込んだ。

 まるで地響きのような音が響き渡り、思わず目をつぶる。

 いったい、なにごと!?
 状況が理解できずに息をのむ。

 でも私、どこも痛くない……。

 パッと顔を上げるとイザークと目が合う。がっしりと腰回りからホールドされている。

「大丈夫か!? どこか痛くないか!」
「わ、私は大丈夫ですけど……」

 イザークは私を包み込んでいた手を離すと、立ち上がる。私の手を取り全身を確認し、息を吐き出した。

「ケガはしていないみたいだな」

 とっさにイザークが私を包み込んでくれたから、私は無事だ。

「イザークは大丈夫?」
「ああ、これしきのこと問題ない」

 私をかばったせいで、膝や肘が汚れていた。

 そこでハッとして顔を上げる。

「ドリー……!! みんなは!?」

 洞窟の入り口に視線を向けると、そこは大きな岩と砂で埋まっていた。
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