この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!
 やがて、足元が明るくなった。
 ぽっかりと穴の開いた空からは光が入り込み、照らしている。

「中央に到着だ」

 イザークが安堵の声を出す。

 この場所だけ、気が満ちている。

 洞窟の中央から見える空。ここは光が差す空間であり、瘴気が及ばない。

 ここなら――。

 私はスッと息を吸い込む。

「どうしたんだ?」

 私の異変に気付いたイザークが声をかけてきたが、優しく微笑む。

「少し、見守っていてください」

 私は日差しの入り込む空間の、真下へと移動する。
 スッと息を吸い込み、全神経を集中させる。

「天に遣われし、魔力よ、この地に宿る瘴気をちりじりにさせ、大地は芽吹き、息を吹き返せよ」

 さすがに私も、これから行おうとすることに、詠唱なしでは不可能だ。

「偉大なる女神の名において、我ここに、闇と対峙する。我らが前の行く手阻む、闇よ滅び、消滅せよ」

 詠唱を始めると風が巻き起こる。それは私を中心とした竜巻となった。
 手の平に全神経を集中させ、両手を合わせる。

「瘴気よ、闇に返るがいい」

 グッと気合を入れ、左手首のブレスレットを外した。

 さあ、いきなさい――!!

 その瞬間、洞窟の奥に風が向かって流れていく。ごうごうとすさまじい音を立て、すべてを吹き飛ばしそうな勢いだ。

「シャルロット……!!」

 イザークが風に抗いながら、私に手を伸ばす。

 あたりを一掃する強風がやむと足がフラフラで、立っているのがやっとだった。

「よかった……」

 ぽつりとつぶやき、ブレスレットを再度、はめ直す。
 イザークが私に駆け寄り、腕をつかむ。

「大丈夫か?」
「ええ……」

 頭がクラクラし、まるで貧血を起こしたみたいだ。まずい、力を使いすぎたみたいだ。

「いったい、なにがどうなっているんだ?」

 目を丸くするイザークの胸に寄りかかる。

「この洞窟、もう大丈夫よ。魔物も出ないし、瘴気も消え去った。これで人が入っても危険じゃないわ」

 イザークはふっと顔を上げると、鼻をピクリと動かした。

「本当だ。さっきより、空気がグッと澄んでいる」

 よかった、どうやらイザークはわかる人だったみたいだ。

「シャルロット?」

 イザークの広い胸に体を預けているが、とても心地よくて安心する。 
 今までにない力を使った反動のせいか、強烈に眠い。今にも倒れそうだ。

 だが、これだけは伝えなくては――。

「もう、大丈夫。だから人を派遣して。ここから結晶を採掘できるわ」

 ああ、眠い。瞼が閉じてしまいそう。

「これで北部はもっと発展するわー―」
「おい!?」

 ダメだ、イザークの焦る声が聞こえるが、起きているのがやっとだと思ったその時――。

「シャルロット様~~~~!! ご無事でしたかぁぁ!!」

 この声はドリーだわ。

 気力を振り絞り顔を向けると、洞窟の真上からのぞき込むドリーがいた。その横にロゼールもいる。

「今、そちらに行きます!」

 ドリーはロープを投げると、スルスルッと滑り下りてきた。その一連の行動は、さすがの運動神経だ。

 その時、視線が反転する。
 気づけば私はイザークに横抱きにされていた。

「今にも倒れそうだ。寄りかかってくれ」
「あ、ありがとう」

 おずおずと彼の首に手をまわした。

「詳しい説明は、あとからでいい。今は安心して眠ってくれ」

 イザークの気遣いがとても嬉しい。私は遠慮することなく瞼を閉じると、意識を手放した。
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