この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

第六章 再会

 それからまた二時間がたち、ある決意が芽生える。

 そうだ、執事長にシャルロットの様子を聞こう。もしかしたら、部屋に来られない事情があるかもしれない。

 意を決してスッと立ち上がり、扉へ向かう。
 部屋を出たら、誰かに事情を聞こう。

 もう、限界だった。

 ドアノブに手を伸ばした時、人の気配を感じ、ピクリと眉を動かす。
 その場から一歩下がると同時に、扉が開いた。

「イザーク……!」

 姿を現したのは、シャルロットだった。
 俺を見るとふわりと優しく微笑んだ。

 彼女を視界に入れた途端、それまで感じていた不安がすべて消し飛んだ。

「待たせてしまって、ごめ――」

 シャルロットが言い終わらないうちに、無意識に彼女を抱き寄せていた。

「イ、イザーク……!?」

 動揺して顔を真っ赤にして、震える声を出している姿でさえ、愛おしい。

 もう離したくない。

 腕に力を込め、無言で抱きしめている間、シャルロットはされるがままでいた。

 どのぐらい抱きしめていただろうか。
 腕の中で感じるシャルロットが与えてくれる温かさに、彼女がここにいるのだと実感する。

「イザーク」

 おずおずと俺の名を呼ぶシャルロットだが、どうやら話があるらしい。
 彼女の肩をつかみ、顔をのぞきこんだ。耳まで赤くなったシャルロットは、なにを言うのだろう。

「まずは、遅くなってごめんなさい。だいぶ、待たせたみたいで……」
「構わない」

 これは嘘だ。本当は待っている時間は長く、辛かった。だが、口に出す必要はない。

「でもね、無事に終わったわ!」
「……終わった?」

 突如、シャルロットの顔がパアッと明るくなる。

「ええ、本当に良かった。ここまで長かったけど、終わってみるとあっという間でした」

 ……もしや、俺たちの結婚生活のことを言っているのか。

 上機嫌で話す彼女の意図を探ろうと必死になる。

「私も必死で。もちろん、周囲もだけど、みんな頑張ったわ!」

 満足そうに語るが、話が見えない。

「でもイザーク、どうしてここに……? 北部は大丈夫なのです?」

 無邪気に問いかけてくるが、これは暗に『なんでここにきた』と責めているのではないだろうか。
 緊張で手に汗をかきながら、シャルロットの肩をつかむ手に自然と力が入る。

「――それは、君を迎えに来たんだ」
「えっ?」
「会いたかったんだ」

 驚いたように目を見開くシャルロットの腰に腕を回し、再び強く抱きしめた。

「だからもう、黙って俺の側からいなくならないでくれ」
「ええっ??」

 シャルロットは素っ頓狂な声を上げる。

 それほどまでに嫌だというのか。
 だが、俺から逃げようとしても、そうはさせない。

「俺は――口下手だし、君の望む言葉の一つもかけてやれないかもしれない。だけど、好きなんだ、シャルロット」

 耳元でささやけば、シャルロットの体に力が入ったのを感じた。

「だからお願いだから、南部に帰るとか言わないでくれ」

 しぼりだすように出した声は心の底から願っていることだった。

「……ちょっといいかしら?」

 シャルロットの声のトーンが下がる。

 おずおずと顔を上げると、綺麗な緑色の瞳と視線が絡み合った。

「なにか、誤解があるようなのだけど……」
「……」
「イザークの話を聞いていると、まるで私が北部を飛び出したように聞こえるのだけど……」
「違うのか?」

 思わず声が強くなってしまうと、シャルロットが肩をビクッと揺らす。怖がらせてしまったかもしれない。

「ああ、すまない」

 いったん、落ち着こうと、息を深く吐き出す。

「北部が嫌で南部へ帰ったのかと」
「えっ!?」
「だから――真相を確かめにきた」
「待ってください、手紙を読んでいないの?」
「手紙?」

 思いあたる節はなく、少しの沈黙の後、ゆっくりと首を横にふる。

「手紙もなく、ただ南部へ戻った、と――」

 シャルロットは目を開き、口をあんぐりと開けた。こんな時だというのに、驚いた顔さえかわいいと思ってしまう。

「……どこかで行き違いがあったようね」

 眉根を寄せ、深刻な表情を見せるシャルロットはパッと手を取った。

「ついてきてください」

 ギュッと握られた手に心臓がドクンと音を立てた。

「ああ」

 そのまま扉を開け、部屋から出た彼女の後を大人しくついていく。
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