ワンナイト限りの割り切り関係に「もう一度」は無粋です! ~正反対な私たちは今日も意見が合いません~
抗議の声も空しく連れられたのは、会社から少し離れた静かな和食店だった。個室に通されてしまえばどうしようもない。仕方なく注文を通して扉が閉まった瞬間、私は彼を睨みつけた。
「風間さん。色々説明していただけますよね?」
「いやー。説明も何も、僕も驚いているんですよ」
そうは見えない彼に、相変わらず疑いの目を向けてしまう。
「『ご縁があったら』というのは社交辞令じゃないですか。どうやって調べたかは知りませんが、仕事場まで追いかけてくるなんて異常です」
「追いかけたわけじゃないですよ。異動は数ヶ月前から決まっていましたし、アプリであなたを見つけたのもただの偶然です」
彼はきょとんとした顔で熱いお茶を啜った。それからコトリと茶飲みを置くと、優しい目で私のことを見つめた。
「それに、あんな性急なことをしてしまって申し訳ないと思っていたんです。あの日、あなたは食事もいらないと言いましたが、僕はちゃんとあなたを知りたかったんですよ」
「知る必要なんてありません。私は割り切りを求めていたんです。そこに、互いのことを知るための食事なんて不要です」
私はきっぱりと言い切る。
ちょうど食事が運ばれてきた。会話はそこで止まるが、店員さんが退室すれば堰を切ったように続ける。
「どちらにせよ、ああいう関係に『もう一度』は無粋です。再会したといえど、同じようなことは絶対にありえませんから」
すると、風間さんは箸を置き、真っ直ぐに私を見つめた。その瞳は、あの日ベッドで見せた熱をそのまま帯びていた。思わずたじろげば、彼はニヤリと怪しく笑う。
「割り切ってしまうなんて勿体ない」
「勿体ない…?」
「ええ。あんなに相性が良くて、しかもこうして再会できた。こんな素晴らしい縁を捨てるなんて、あんまりではありませんか」
この男は、何を言っているんだろう。誠実なのか、それともとてつもなく傲慢なのか。私は呆れを通り越して、ため息をついた。
「風間さん、ここまで話して分かるでしょう?私たち、正反対なんです。価値観も考え方も愛情の重さも。……とことん話の合わない相手と関わるのは、お互いに苦痛でしょう?」
「ええ、合いませんね。だからこそ、面白いのではありませんか。それを苦痛とは呼びませんよ」
彼は屈託のない笑みを浮かべた。
「これからは毎日顔を合わせるんです。氷川さんがどれだけ拒んでも、僕は逃がしませんよ。仕事でも、それ以外でも。ああ、アプリは一緒にアンインストールしましょうか。僕のことはブロックしたようですが、きっとまだ入っているでしょうから」
伏せて置いてあるスマホをチラッと見た風間さん。その中には、彼の予想通りアプリが入ったままだ。そこまで見透かされていることに、もう何も言えない。目の前の男は、私が最も苦手とする『執着』と『独占欲』の塊だった。
割り切れない毎日が始まる。
私はこれから起こるであろう出来事から逃避するためにも、目の前の豪華な刺身定食をやけくそ気味に口に放り込んだのだった。
「風間さん。色々説明していただけますよね?」
「いやー。説明も何も、僕も驚いているんですよ」
そうは見えない彼に、相変わらず疑いの目を向けてしまう。
「『ご縁があったら』というのは社交辞令じゃないですか。どうやって調べたかは知りませんが、仕事場まで追いかけてくるなんて異常です」
「追いかけたわけじゃないですよ。異動は数ヶ月前から決まっていましたし、アプリであなたを見つけたのもただの偶然です」
彼はきょとんとした顔で熱いお茶を啜った。それからコトリと茶飲みを置くと、優しい目で私のことを見つめた。
「それに、あんな性急なことをしてしまって申し訳ないと思っていたんです。あの日、あなたは食事もいらないと言いましたが、僕はちゃんとあなたを知りたかったんですよ」
「知る必要なんてありません。私は割り切りを求めていたんです。そこに、互いのことを知るための食事なんて不要です」
私はきっぱりと言い切る。
ちょうど食事が運ばれてきた。会話はそこで止まるが、店員さんが退室すれば堰を切ったように続ける。
「どちらにせよ、ああいう関係に『もう一度』は無粋です。再会したといえど、同じようなことは絶対にありえませんから」
すると、風間さんは箸を置き、真っ直ぐに私を見つめた。その瞳は、あの日ベッドで見せた熱をそのまま帯びていた。思わずたじろげば、彼はニヤリと怪しく笑う。
「割り切ってしまうなんて勿体ない」
「勿体ない…?」
「ええ。あんなに相性が良くて、しかもこうして再会できた。こんな素晴らしい縁を捨てるなんて、あんまりではありませんか」
この男は、何を言っているんだろう。誠実なのか、それともとてつもなく傲慢なのか。私は呆れを通り越して、ため息をついた。
「風間さん、ここまで話して分かるでしょう?私たち、正反対なんです。価値観も考え方も愛情の重さも。……とことん話の合わない相手と関わるのは、お互いに苦痛でしょう?」
「ええ、合いませんね。だからこそ、面白いのではありませんか。それを苦痛とは呼びませんよ」
彼は屈託のない笑みを浮かべた。
「これからは毎日顔を合わせるんです。氷川さんがどれだけ拒んでも、僕は逃がしませんよ。仕事でも、それ以外でも。ああ、アプリは一緒にアンインストールしましょうか。僕のことはブロックしたようですが、きっとまだ入っているでしょうから」
伏せて置いてあるスマホをチラッと見た風間さん。その中には、彼の予想通りアプリが入ったままだ。そこまで見透かされていることに、もう何も言えない。目の前の男は、私が最も苦手とする『執着』と『独占欲』の塊だった。
割り切れない毎日が始まる。
私はこれから起こるであろう出来事から逃避するためにも、目の前の豪華な刺身定食をやけくそ気味に口に放り込んだのだった。