ワンナイト限りの割り切り関係に「もう一度」は無粋です! ~正反対な私たちは今日も意見が合いません~
 数分後、私は風間さんのエスコートの元、地下駐車場に停められたセダンに乗り込んでいた。風間さんによく似合うその車は、隅々まで手入れが行き届いているのがひと目で分かった。ドアが閉まると同時に外界の喧騒が遠のく。車内には、彼が愛用しているシトラス系の香水の香りが静かに満ちていた。

(はぁ…。なんだか緊張する)

 ソワソワするというか、なんだか落ち着かない。
 変なむず痒さに手を焼いていると、わざわざ扉を開けてくれた彼が運転席に乗り込んだ。

「さあ、住所をお聞きしてもいいですか?」
「家の近くは止める場所がないので、△△という所にお願いします」
「分かりました。そこからお家までは近いんですよね?」
「……そこ、疑います?」
「氷川さんなら誤魔化しかねないので」

 悪戯に笑う彼は、目的地をセットしたスマホをナビとして固定した。目的地はしっかり私が告げた場所。どうやら本当に送ってくれるらしい。

「じゃあ、動きますね」
「お願いします」

 静かに動き出した車に合わせるように、地下駐車場の白い照明が窓の外を流れていく。滑るような走りに揺れはほとんどなく、それが余計に緊張を際立たせた。助手席に座っているだけなのに、妙に心臓が忙しい。

(落ち着け、私…)

 視線の置き場に困って窓の外を眺めていると、不意に風間さんが小さく笑った。

「そんなに固くならなくても襲ったりしませんよ」
「……誰のせいだと思ってるんですか」
「僕ですか?」

 わざとらしく首を傾げる横顔は、相変わらず整っていて腹が立つ。しかも運転中だというのに、その余裕そうな表情がさらに悔しい。

「はぁ~…整った容姿は人の心を動揺させることを自覚してください」

 すると彼は一瞬だけ目を丸くしたあと、ふっと柔らかく目を細めた。

「おや? 僕の容姿が整っていると、そう思ってくださっていたんですか」
「っ、今のは忘れてください」
「無理です。ちゃんと覚えておきますね」

 からかうような声音なのに、不思議と嫌ではない。
 口が滑ったのは自業自得だが、そんなにも嬉しそうな顔をされたら何も言えなくなってしまう。

 地上へ続くスロープを上がると、フロントガラスの向こうに夜の街の灯りが広がった。
 その光を横目に見ながら、私は気づかれないよう小さく息を吐いた。
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