ワンナイト限りの割り切り関係に「もう一度」は無粋です! ~正反対な私たちは今日も意見が合いません~
「さあ、どうでしょう?」
(この…!)

 でも、提示された提案は有難すぎるものだ。帰りたい気持ちと彼に借りを作りたくない気持ちの狭間で、猛烈な葛藤に襲われる。
 たしかに、このまま時間を潰すのは苦痛でしかない。その上、明日の祝日が無駄になるのは避けたいところ。けれど、彼の車に乗るということは、狭い密室で2人きりになるということだ。オフィスでのやり取りとは訳が違う。

 「……いや、いいです。駅の近くで時間を潰しますから、お気遣いなく」

 私は努めて冷静に、けれど明確に拒絶の言葉を口にした。しかし、風間さんは全く怯む様子もなく、むしろ私の頑なさを楽しむように肩をすくめる。

「まあまあ、そう言わずに。ニュースを見ましたか? 現場の検証に時間がかかるらしく、深夜まで動かない可能性が高いそうですよ。折角の祝日が潰れるのは勿体なくないですか?」
「それは、そうですけど……」
「そこまで警戒しなくていいですよ。善意で送るだけです。下心なんて、……まあ、ゼロとは言いませんが無理強いはしません。上司として、足止めを食らった部下を助けたいだけです」

 正論を並べ立てられてしまえば、ぐうの音も出ない。
 窓の外を見れば、帰宅ラッシュに巻き込まれた人々の苛立ちが街の喧騒となって伝わってくる。ここで意地を張って独り夜を明かすか、彼の好意に甘えるか。どちらが賢い選択かは明白だった。

「…分かりました。風間さんのご迷惑でなければ、お願いしたいです」

 私が溜息混じりに白旗を揚げると、風間さんは「もちろんです」と勝ち誇るでもなく、ただただ心底嬉しそうに目を細めて頷いた。
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