苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

プロローグ


 

  朝、出勤前の電車に揺られながら、頭の中にふと過る。
 
 今日は、いつも通りの対応でいいよね……。
 でも、先週の話を持ち出して挨拶しておく方がいい?
 けど……。

 私、芦原 明奈(あしはら めいな)は週末にあった出来事に囚われて、少し憂鬱な月曜日を迎えている。その件は自分の中で処理したはずなのに、どこかモヤモヤとした感情が消えないでいた。

 ――あぁっ。もういい加減、悩むのはやめよう!

 余計なものを振り払うように、早足で都内のターミナル駅にある広い通路を通り過ぎ、仕事場のあるオフィスビルへと向かった。

 エントランスに到着すると、いつも通りにIDカードをパネルにかざす。エレベーターホールへ進み、待っている人が少ない列へと並んだ。
 ぼんやり頭を平日モードに切り替えているうちに、エレベーターの扉が開く。そのまま乗り込むと、後から大柄な男性が一人滑り込むように入ってきた。

 その瞬間、鋭い視線がこちらへ放たれ、矢のように突き刺さる。
 しっかり重なった視線の相手は、課長の藤生 陽貴(ふじい はるたか)だと認識した。彼は先ほどから頭を悩ませている相手だ。
 私の隣に立つと、すぐに到着階を示すインジケーターを見上げている。とたんに心音スイッチが入り、変な汗がじわりと滲んだ。

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