苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「あの……前に、気になる女性がいると……。それって、社内の方……なのですか?」
そう言葉を伝えたとたん、彼は押し黙ったまま急に顔を強張らせ、視線を落とす。
「いったい何を知りたい?」
低い声で尋ねられ、やはりこの質問はまずかったんだろうかと後悔した。慌てて、猛スピードで他の話題を探そうとする。
「い、いえ。別に意味はないんです。この前、職場で……」
すると課長は顔を上げ、まっすぐにこちらを向く。すぐにその瞳に捕らわれてしまい、私は箸を持ったまま、魔法にかかったように動けなくなる。
「芦原……俺は」
そういったまま言葉を止め、彼は深く長い息を吐いた。
「――いや。そんなことを知ったところで、どうする? それより、職場で何があった?」
「あっ。い、いえ。この前、企画した商品をサイトで見つけて……それを佐伯さんと志田さんがふざけて……えっと、何を言おうとしたのか……」
急に話しを振られ、しどろもどろになる。すると、急に課長が吹き出した。
「あの二人、毎回、お笑いのコントみたいだな」
その笑顔を見て緊張がほどけ、何だか気持ちが緩んでいく。課長が何を言おうとしていたのか気にはなるけど、今はこうして笑い合えればそれでいい。
その夜、私は何度も笑い声を上げる彼の姿を目に焼き付けた。