苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

 伝える言葉も浮かばないうちに、ただ部長の背中を追いかける。部長はちょうどドアの外へ出るところだった。

「待ってください、部長!」

 廊下を出たと同時に振り返った部長は、眉間に皺を寄せ、明らかに不機嫌そうだった。
 一瞬、油断ならない相手に尻込みしそうになる。でも、そんなわけにもいかず、指先に力を込めた。

「私は、すべての責任が課長にあるとは思えません。実際、課長は私のメンターを担当し、助けていただいてます。もしかして、後藤さんとの間に何か行き違いがあって――」

「それがどうした! いったい、何が言いたい!?」

 強い口調で私の言葉を遮ると、部長は口元を引きつらせた。

「君は失礼だな。上司を前にして、まずは部署名と名前を先に伝えるべきだろ」

 ドキッとして体が凍り付く。部長に逆らうということは、いつまでここにいられるかわからないということだ。私は一呼吸置くと、覚悟を決めて声を上げた。

「商品企画課、Cチームの芦原明奈です」

 すると部長は片方だけ頬を上げ、ニヤリと笑った。

「そうか……。最近、物覚えが悪いんだ。人事異動の際、しっかり名前を記憶しておかないと、配置に困るからな」

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