勘違いだらけの契約婚
 ユージーンが思い描く未来にはミリアリアもいるのだろう。
 それが当然とばかりに胸を張る彼はよき領主だ。形だけの妻の命も尊重してくれる。これ以上の人はいないと断言できる。

「契約書について話を戻そう。ミリアリアが来た当初、君はかなり衰弱していた。俺と同衾すれば、たとえ何もしなくても君は一晩中、緊張することは目に見えていた。だから最初の項目に寝室を別にすることを明記した。ミリアリアに必要なのは栄養と快適な睡眠だ。心身ともにしっかり休み、健康を取り戻してほしくて、いろいろと書き連ねた」

 切実な響きは、純粋に自分の身を案じるものだ。労りに満ちた蒼紫の瞳に見つめられ、ミリアリアの心はぽかぽかと温かくなっていく。
 改めて、彼の元へ嫁げた幸福を感じずにはいられない。

「……ユージーン様。わたくしはこれほど誰かに気にかけていただいたことがございません。すでに返せないほどの恩があります。わたくしは、あなたの妻として臣下として、今後も──」
「待った。ミリアリア、君は誤解している」
「誤解……ですか?」

 きょとんと目を瞬かせていると、ユージーンが首肯する。

「俺は妻に臣下になってほしいわけじゃない。侯爵家当主は俺だが、君とは対等な関係でいたいんだ。ミリアリアに初めて会ったとき、君を守りたいと強く思った。当初は形式上の妻にする予定だったが、君と出会って考えが変わった。同じ家で過ごし、君のことを知るたびに愛おしさが増していった。この気持ちはもう誰にも止められない。…………俺は、愛し愛される夫婦になりたい。だから最初の契約は破棄させてもらう」
「…………え?」
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