追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
飲み込まれてしまいそうな心を隠そうと旭から、慌てて離れた。ただでさえ、大きな存在なのだから、心に取り込まれないように顔を背けたのだった。
「先生、着替えてきます」
「うん、分かった」
視線をそらしたまま部屋を出て行った。あの頃とはまるで逆の立場になっていたのを感じていた。白藍の姫がいつも絡み付いてくるように、くるくると旭の周りを付き纏っていた。
それは心地よく優しい笑い声と一緒にそこにあった。今世の藍はそばにいるが、存在は遥かに遠い。昔よりも遠い心に、この気持ちは届かないのだろうかと旭は焦った。息苦しい程のこの思いなのに、あの頃の白藍に会いたいと。
2人は朝食を早く済ませて、車で坂原邸跡に向かった。昭和の時代に戦火に燒かれ跡形もない。そこにあるのは空き地だけだった。
門があった場所には、屋敷の説明書きが書かれていて、どこに何があったか記されていた。何もない場所だが、旭には当時の姿が見えていた。
「残念ですね。何もない」
「歴史が見えてくる。確かにいた人物の歴史を感じる」
「さすが先生。もう頭の中で物語を紡ぎ始めましたね」
「ねぇ、何か感じない?」
「私、霊感ないんですよ」
「違うよ。頭の奥の記憶が蘇らない?」
「さあ、何も」
「そうか…」
「何がっかりしてるんですか。乱世の時代でしょ。私歴史の授業は苦手だったんです。すみません」
「歴史上には残らなかった人物だが、伝説のように伝えられている話がある。それが白藍の姫です」
「白藍の姫?先生の書こうとしている物語ですね」
「そう」
この話を書くにあたって、旭の心に残る記憶と、その後の出来事を知った上で、耐え苦しむ覚悟に、まだ戸惑いがあった。白藍の姫の最期は幸せなものであればという願いとは裏腹に、その伝説は悲劇のようだった。
今から探る伝説は白藍を、もう一度失うことになるようで、知りたくない。パンドラの箱にしまい込みたいと言う思いが心を閉ざしてしまう。今までそうやって逃げていたのだから仕方がない。
だが藍が、目の前に現れてからは、足を踏み入れなくてはならない領域だと感じた。藍が、そうさせるのだから仕方がないと思った。辛いあの頃が蘇り、その試練を越えなくてはならない。
まだ終わってはいないのだと実感した。藍と共に生きたい。もう離れたくない。それが欲望なら、本能のまま生きようと決意したのだった。飲み込まれても耐え忍しかない。
「先生、着替えてきます」
「うん、分かった」
視線をそらしたまま部屋を出て行った。あの頃とはまるで逆の立場になっていたのを感じていた。白藍の姫がいつも絡み付いてくるように、くるくると旭の周りを付き纏っていた。
それは心地よく優しい笑い声と一緒にそこにあった。今世の藍はそばにいるが、存在は遥かに遠い。昔よりも遠い心に、この気持ちは届かないのだろうかと旭は焦った。息苦しい程のこの思いなのに、あの頃の白藍に会いたいと。
2人は朝食を早く済ませて、車で坂原邸跡に向かった。昭和の時代に戦火に燒かれ跡形もない。そこにあるのは空き地だけだった。
門があった場所には、屋敷の説明書きが書かれていて、どこに何があったか記されていた。何もない場所だが、旭には当時の姿が見えていた。
「残念ですね。何もない」
「歴史が見えてくる。確かにいた人物の歴史を感じる」
「さすが先生。もう頭の中で物語を紡ぎ始めましたね」
「ねぇ、何か感じない?」
「私、霊感ないんですよ」
「違うよ。頭の奥の記憶が蘇らない?」
「さあ、何も」
「そうか…」
「何がっかりしてるんですか。乱世の時代でしょ。私歴史の授業は苦手だったんです。すみません」
「歴史上には残らなかった人物だが、伝説のように伝えられている話がある。それが白藍の姫です」
「白藍の姫?先生の書こうとしている物語ですね」
「そう」
この話を書くにあたって、旭の心に残る記憶と、その後の出来事を知った上で、耐え苦しむ覚悟に、まだ戸惑いがあった。白藍の姫の最期は幸せなものであればという願いとは裏腹に、その伝説は悲劇のようだった。
今から探る伝説は白藍を、もう一度失うことになるようで、知りたくない。パンドラの箱にしまい込みたいと言う思いが心を閉ざしてしまう。今までそうやって逃げていたのだから仕方がない。
だが藍が、目の前に現れてからは、足を踏み入れなくてはならない領域だと感じた。藍が、そうさせるのだから仕方がないと思った。辛いあの頃が蘇り、その試練を越えなくてはならない。
まだ終わってはいないのだと実感した。藍と共に生きたい。もう離れたくない。それが欲望なら、本能のまま生きようと決意したのだった。飲み込まれても耐え忍しかない。