追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 伝説があるせいか、道は歩きやすく補正されていた。あの頃より難なくたどり着いた。それに崖に手すりがつき、周りは広い空間になっていた。

軽快な景色は悲しみの場所とは言えず、観光目的にとどまる所になっていた。そこには午前中の早い時間でも、カップルが数人いて、赤い刺繍糸を手すりに結びつけていた。

「あ、お尋ねしてもいいですか?なぜ糸を結ぶんですか?」

藍がカップルに聞くと、彼女の方がスマホのSNSを見せてくれた。

「手すりに刺繍の赤い糸を結ぶと、ずっと一緒に幸せでいられるって書いてある」
「へー、刺繍糸で」
「お土産屋さんに売ってますよ」
「そうですか、ありがとう」

藍はスマホのSNSを検索してみた。旭にそれを見せる。そこには伝説が簡単に書いてあり、赤い糸を手すりに駒結びにしてつけると、恋は成就して、末永く幸せにいられると書いていた。

「へえ、悲劇の場所は幸せの場所になったんですね」
「客寄せに過ぎない。実際は酷い最後だった。男の方は、後悔と無念で屍になっても魂は乱世に縛られている」
「やめてください。そんな言い方、怖いじゃないですか。ここに書いてありますよ。結ばれない2人は来世で必ず結ばれようと約束をしたそうですよ。その願いが今世の恋人たちの思いに成就をもたらすと書いています。」
「ネット情報を本気で信じているとは、ばかばかしい。迷信に過ぎない」
「夢がないですよ。先生は仮にも愛を綴る恋愛小説家なんですよ。夢を与えてくれないと愛のない世は、真っ暗な闇に過ぎない。味気ない世の中になってしまいます」
「では、大林さんが姫ならどう思う?」
「乱世の姫なら私の叶えられなかった愛を、この世で私の分まで幸せになってくださいと思います。人の不幸は望みません」
「覚えてないから、そんな平和主義でいられる」

旭は小声で言った。藍の記憶がないことに腹立たしく
思うのだ。
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