追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 昨晩、藍は眠れなかった。早々に荷物を玄関の近くに置き、キッチンへ行く。そこには旭がいた。

「おはよう。朝食作ったから、よかったら一緒に食べよ」
「おはようございます。ありがとうございます」

藍はよそよそしく、そっけない様子だった。旭にどんな顔をしていいか分からず、暗い表情になっていた。

旭は何も聞かずに、テーブルの上に白藍の姫の好きな焼き魚を用意した。他に具だくさん味噌汁とほうれん草のおひたしと卵焼き、そして炊き立てのご飯をよそって、置いた。

「さぁ、召し上がれ」
「いただきます」

藍は子供みたいに無心になって朝食を食べ始めた。無意識にうっすらと笑顔が浮かんでいた。

「美味しい」
「だろう。美味しいものを食べれば笑顔になれる」
「すごく美味しい」

今度は優しさが心に染みてきて、涙が浮かぶのだった。旭はさりげなく、ティッシュペーパーの箱をテーブルに置いた。藍はそれをとって涙を拭いた。

「ありがとうございます」

旭は泣いている藍を見なかった。旭が一番、苦手なものは白藍の姫の涙だ。

どうしていいか分からなくなる。できるものなら、その悲しみを全て代わりに請け負いたいと思った。

過去の旭には何もない。どうしてやることもできず、ただ抱きしめて一緒に泣いていた。

今の旭は、あの頃の子供ではなかった。抱きしめて、ただ泣く事はしなかった。今世ではあの頃よりも多くのものを手にしていたからだ。
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