追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 旭は藍が出勤したことも気づかなかった。静かに出ていたのは気遣っていたのだろうと思っていた。必ずこの家に帰ってくると疑わなかった。

藍が帰ってくるまでに白藍の姫の手紙を読もうと、漆器の箱を開けるのだった。

達筆に書かれた文字は、普通では読みづらいが、旭にはすらすらと読める。白藍の姫と一緒に手習いとして、教育係に文字を習っていたから、読めて当たり前なのだ。

そこには、旭が死んだ後の白藍がいた。

「旭と呼べばまた現れるのではないかと、何度も読んでいた」

手紙の書き出しは悲しみが癒えないと書かれていた。そこには旭の屍を運ぼうと白藍は、力の限り抱きしめ起こし上げようとしたと書かれていた。それは、まだ十四そこらの少女が起こせる訳がなかった。

乳母が姫を探し当てようとしたが見つからなかった。そこに攻めてきた武内の当主に早くに見つかっていた。 

 美しい姫を殺すよりも側室にしようと考えたのだ。姫は乳母と共に武内家に連れてこられたそうだ。

姫は何度も死のうとするが、その度に乳母に止められた。旭が助けた姫の命を無駄にするなと言うのだ。

それを聞くと死ねなかったそうだ。心は旭と共に死んでいたのに。手紙には辛いと何度も書かれていた。

そして、側室を拒否しようとしたが、乳母の言葉に坂原家が途絶えるのは忍びないと説得した。

そして姫として、この世に生を受けたのなら、子孫を絶やさしては、坂原家の当主様の死が無念だと泣いた。その言葉は、惨いとしか思えなかった。

逃げ場を失った姫の心は、もう一度死んで屍となった。そして感情を表に出せなくなったのだ。
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