追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 またしても大きなスーツケースを転がし、旭の家の玄関先まで来た。

暖かな温白色系の灯がついていて、ほんわかする気持ちだ。おばあちゃんの家に来た感じが、いいなと改めて思わせる。

すると玄関に人の気配を感じたと思った。そして大きな音を立てて戸が開いた。

そこには美しい女性が立っていた。呆気にとられてぼーっとして見つめていると目があった。

背が高くすらりとした。細身に栗色のウェーブのかかった髪は、柔らかく輪郭に沿っていて優しさを感じさせた。

「ゆう、あったか?なかったら新しいのがあるから使うといい」

旭の声がして、姿が現れると藍が目に入った

「来てくれたんだ」旭の顔は明るくなった。
「シェアハウスと聞いて来ました」
「さぁ入って。あっ、(ゆうのことを誤解されないように説明した)彼女はゆうだ。僕の友達、シェアハウスの仲間だ」
「はじめまして、相原ゆうです。スタイリストしています」
「はじめまして。大林藍です」
「知ってるわよ。出版社の方ね。(藍の耳元で)ライバルね。旭を渡さないわよ」
「そんなんじゃないです」藍は慌てて言った。
「そう言ってみんな、旭を狙っているんだから」
「えー!」

旭はゆうが女性だと思われると不利になると思い付け加えて言った。

「彼女だけど、ゆうは」
「私の体は男だけど、女性の気持ちを持っているから、貴女には全く興味がないから、心配しなくていいわよ」
「男性なんですか。それに心配なんてないですよ。ジェンダーの時代です。男だから女だからって関係ないんです。この世の中は人間性です」
「人間性ねえ。貴女は私を見て驚かないのね。差別もしていないわね」
「差別なんて、そんな酷いことできません」
「ねぇ、ゆう。この人なら大丈夫だろ」旭が言った。
「仕方がないわね。旭がシェアハウスに誘う住人はいい人だって思っているわ。だから来たんじゃない」
「ありがとう、ゆう。さぁ、大林さんも上がって」
「はい、ありがとうございます」

藍は旭の笑顔につられて上がった。藍が前に泊まった部屋を開けると以前よりも整っていた。ベッドのシーツは藍の好きな白藍色は変わりなく、ピンクの花柄が可愛いと思っていた。
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