追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 旭は急いで藍のいる部屋へ行き、扉の外で声をかけた。

「大林さん、ごめん。見苦しいところを見せて。あれは、何もないから、あいつ、ふざけていただけで」

すると扉が静かに開いた。藍が切なそうな顔をのぞかせた。

「いいえ、お気になさらずに、先生もお若いので、彼女との事は、ご自由に。プライベートの事は口出ししないので、ご安心ください」
「彼女じゃないから、勝手にキスしてきただけ」
「勝手って、女の気持ちを踏みにじっていませんか」
「え、怒っているの?誤解だって」
「ちゃんとした方がいいですよ。女心は男と違って割り切れないことがあるので」
「そんなにムキになって、僕のこと好きなの?」
「え、ただ女の子の気持ちを考えただけです」
「へー、そう?」

旭は藍のちゃんとした方 がいいと言う言葉に対して、一途な自分の気持ちを分かって欲しかった。もどかしい思いが作用して、無意識に藍を抱きしめキスした。
藍は旭の行動に動揺して、体を離し頬を叩いた。

「やめてください。私は同棲を解消したばかりで、恋だの愛だのと言う感情に敏感になっているんです」
「ごめん。でも、僕は貴女のことが本当に好きなんです。この気持ちは抑えられない。それだけは本心です」
「傷は癒えていないんです。今は何も考えられない」
「僕はいつまでも待ってる。これだけ貴女の出現を待ったのだから」
「少し、1人にしてください」

藍はいたたたまれなくて、また部屋に閉じこもった。

 旭の方は先程の葵の事がよぎった。もしかしてこんな気持ちだったのかと、でも藍の事は本気で葵の事は眼中になかった。

「そうだな。ちゃんとしなくてはな」

そう言うと旭は扉から離れて、切ない気持ちを抑え、書斎に戻り仕事を始めた。
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