共感と同調は違うのよ
 私の婚約者である、ヨーゼフ伯爵令息はちょっと変わった人だった。


 故にせっかくカッコいいのに、令嬢達から引かれていたのだが、私は特に問題無いと思ったし、さらに普段のダサさのせいで冴えないだけで、衣装を着せれば見栄えがよくなることすら見切っていたので、お父様に、


「ヨーゼフ様はきっとお得だと思いますわ、さらにあの伯爵家は勢いも最近ありますし、政略結婚としても一挙両得!私ヨーゼフ様と婚約で構いませんわ!」



 お父様は驚く「いやいや、アンリが商人みたいな発想をする合理主義なのは知っていたが、うちは侯爵家だぞ?それを売れ残りみたいな男を買い叩くなんて、商人としても失格では無いか?」




「だからこそです、きっと伯爵家は僥倖に思うはずで、私からしたらお買い得な男だとすら思っているのですが、あっちはその価値を知らずに、こちらに感謝する、一挙両得では無いですか!」




「……そこまで言うのなら構わんよ、ヘンリー(私のお兄様)がいるから後継者に困るとかは無いからな!」



「ありがとうございます!」



 こうしてお父様を説得して婚約者になったのだが、もちろんここまで完全に乙女心を捨てた理由が動機では無い。


 もう少し理由が当然あるのである!



 3年前、私が13歳の頃に、いつまでも子供扱いするお母様と大喧嘩をして、家を飛び出したことがあった!



 その時に、川に向かうと、そこにいたのがヨーゼフ様で、私よりも年上の18歳だったのだが、石を熱心に眺めたり触ったりしていたのであった……



 私が来たことにすら気づかずに、ずっと熱心に!



 私はあまりの熱中っぷりに、さっきまでの怒りもそこそこに、何をしてるのだろうと気になった。




 そして思わず話しかけてしまったのであった!


 本来よく知らない人に、まして令嬢から男性に話しかけるなんて、マナー的な意味でも、それから実際の危なさから考えても危険な行為で、避けるべきだとは知っていますけど、何て言うか、全然危険な雰囲気を感じなかったので……!



 するとその時初めてヨーゼフ様18歳、伯爵家の方と知ったのですが、


 どうやらヨーゼフ様は、石を眺めたり触ったりするのが大好きらしくて、暇さえあればそうしているとのこと。


 私が「どこが好きなのでしょうか?」と当然理解できないので聞いた所、



「申し訳ないけど、上手く言語化できないんだ、何故と言われても、好きだからとしか言えない……上手く説明できなくて申し訳ないね……!」




 私はこれを聞いて、すぐにヨーゼフ様のことが気になってしまった。


 何故か?


 まず当時の私はまだまだ小娘に過ぎず(今だってそうだと言う意見は無視します!)


 そんなもの相手に、18歳の方が、大人ぶったりするわけでもなく、対等に話しかけてくれた点。


 次に無理な言語化をせずに、分からないと言い切るその正直さ。



 今までに出会ったことが無い人というか、見栄の張り合いばかりしている貴族らしさの欠片の無さに、お母様と喧嘩をした私からしたら、新鮮な気持ちを教えていただいたのであった!

 お母様は、貴族らしいマナーにうるさい方でしたからね、特に当時は!(今はそこまで子供扱いされていないので、うるさいことを言われる量も減りましたが)




 こうして何度も何度も川でお会いしているうちに、別にきっかけは無かったのですが、いつのまにか好きになっていることに気づいた。



 幸い変わり者扱いされていて、見た目は絶対にカッコいいのに、普段の恰好が冴えないせいで、それもバレておらず、ライバルは皆無で楽だった。



 そして年頃の16歳になったから婚約をお父様に頼んだということである!



 もちろんこんなことをお父様に言っても理解されないというか、貴族としてシビアなお父様を説き伏せられないことは知っていたので、ああいう商人みたいな言語を使ったのである!


 お父様に限らず、ある程度合理主義的な感覚の方と話す時は、ああいう言い方に限りますからね!




 相手が陛下級な方でしたら、また違うのかもしれませんが(お父様の陛下への対応から、何となくは分かります)






 ということで、ヨーゼフ様と私が初めて2人で社交場に繰り出す日が近づいてきた!



 ヨーゼフ様は私に言う「私自身はぶっちゃけどうでもいいのだが、君に恥をかかせるわけにはいかない!」




「大丈夫です、殿方の方は誤解されている方が多いのですが、オシャレとは、女性の世界では、美しいものをさらに美しくするというよりは、誰であっても、見れるものにする、これがオシャレですので、流儀にさえ乗っ取ればいいだけです、その辺りは、専門の方にお任せしますので、ヨーゼフ様を素敵にすることができます」



「そういうものなのか、いやぁ石以外は私は疎いからなぁ!」




「……それにですね、ヨーゼフ様って、実はカッコいいんで、きっと映える姿になると思いますよ!」




「そ……そうなのか!?」



 まったく、自分の価値を分かっていないお方だ!


 だがそれを見出した私が偉いと言うことで!(笑)




 オシャレをしたヨーゼフ様は、やはり超カッコいい!

 いや私の身びいきは絶対にあるのは認めるが、それを抜いても絶対にカッコいい!



 私がキラキラの目で見ていると……ヨーゼフ様は……




「大丈夫かなぁ?私だって知っている、私のようなものと婚約したことで、アンリは見る目が無いなどと陰口を叩かれていることを!これだけは許せないのだ!」




「……問題ありません、むしろ私の見る目の素晴らしさの前に、そういう戯言は屈することになります!」




「……偉い自信満々だな!」



「……自信を持つべきはヨーゼフ様ですわ!」




 こうして、私とヨーゼフ様が社交場に仲良く入場すると……




 散々私を馬鹿呼ばわりしてきた令嬢達も、息をのむ勢いである。



 どうだ!ヨーゼフ様はカッコいいだろう!



 と私は今生まれて一番のドヤ顔をしているに違いない(笑)





 すると普段から私の事を嫌っている公爵令嬢が現れて、戯言を言ってくる。




「あら、見る目が無いアンリさんにしては、頑張ったって認めてもいいわよ!」



 ツンデレかな?


 明らかにカッコよいと思っているのが透ける透ける!


 でもそれを認められないって、身分が上の方としては、器の狭さが透けるわよ?




「ありがとうございます、私の自慢の婚約者でございます!」




 私の自信満々な振る舞いに、悔しそうに、



「……奪われたりしないように、注意なさい、貴女とは釣り合っていないのだから!」



 何て嫌味を言って去っていくが、


 流石に無理筋過ぎないか?



 一応、身分も私の家のほうが上である、さらにヨーゼフ様は、私以外の令嬢に今まで相手されて来なかった。


 もちろん私からしたらそれでヨーゼフ様にマウントを取る気は一切無いが、明らかに世間的に今まで格上だったのは私だったからこそ、見る目が無い呼ばわりされて馬鹿にされたのも私である。


 にも拘らず、悔しさの余り、私が釣り合ってないとか言い出すとか、どれだけ悔しかったんですか!


 私の事が大嫌いなあいつは、当然私も大嫌いだが、身分が上なだけに、ムカついたことも多かっただけに、これほど溜飲が下がったことは無い!



 別にヨーゼフ様とこのために婚約したわけでも何でも無いが、おまけが気持ちいいとか最高かな?





 というわけで、堂々と仲睦ましい様子を見せて、社交場は大成功に終わった!


 もう私に文句を面と向かって言うボケもいないでしょう!


 そんなものなのよ、下らない、馬鹿令嬢共は……!


 ちょっとカッコいいってだけでこれである。


 もちろんヨーゼフ様はカッコいいが、私から言わせれば、本当に素敵な部分は別だっつうの!



 私は未来を見ている、きっとヨーゼフ様ならば、



 私を見下したりはしないだろう、分からないことを分からないと言える方なので!


 さらにだ、石を見たり触ったりするのが好きという趣味は、正直理解はできない!


 が、別に財産を食いつぶす趣味でもなければ、他に有害なわけでも無い!


 それが好きならば好きにすればいいのだ、別に1つくらい趣味があるからって何だと言うのだ!


 そして、自分が変わった趣味だからってことを負い目に思う必要も無いのに、そのおかげで私にも寛容なのだ。


 これほど結婚をして、いい相手っているだろうか?きっといない!


 結婚向けな殿方って中々私は少ないと思うんですよね!


 独身貴族って言葉が、男にはあるくらいなのだから!


 我々は貴族ですが(笑)






 そして結婚も秒読みになって、私が幸せな結婚を確信していたら、何とあの馬鹿公爵令嬢の呪いなのか、ヨーゼフ様を奪おうという愚か者が現れるでは無いか!



 しかもそれは我が妹の、ナタリーであった……



 こいつさぁ……




 ナタリーはなんていうか、姉である私を意識し過ぎで、私がやることなすこと真似したがったり、同じものを欲しがる馬鹿なのである。


 私は私、お前はお前だろって思っているのですが、2人姉妹ですので、私以外真似する相手がいないからか、すぐにそうするのである。



 まぁ今までは良かった、私があしらってあまり相手にしなかったから!


 だが今回は許されなかったのである!



 何と、「ヨーゼフ様と婚約するのは私なの!」


 などと言い出したのだ。



 お前さぁ、明らかにヨーゼフ様みたいな方、タイプじゃなかったよね?


 さらに私とヨーゼフ様ですら5歳離れているのだから、お前は私の2歳下の14歳なんだから、7歳も離れてるだろうが!


 まぁ愛があれば年齢なんてどうでもいいとは思いますけど、釣り合いって意味ではもっと苦しいんですけど?




 私はアホらしいと思っていたが、私とヨーゼフ様がお茶を飲んでいると、



 ナタリーがやってきて言い出す!



「ヨーゼフ様!私石が大好きですわ!こんなにも集めたのです!」




 ……終わったな、私は思った、ヨーゼフ様の石好きを舐めた報いを受けるに違いないと確信していた!そして……





「なるほど、ナタリー嬢、君も石が好きなんだね?ではその集めた石のそれぞれどこが好きなのか語って欲しい!いくらでも聞こうでは無いか!」




 ……爆笑、これ嫌味とか試しではなく、ヨーゼフ様はガチで言っているのだ、石が好きである以上いくらでも語れるヨーゼフ様なので、ナタリーもきっとできると思っているに違いない!



 ヨーゼフ様は何故石にそこまで惹かれるかという、根本的な理由は分からないと言っていたが、この石のこう言う形がいいんだとか、そういう主観でいいのであれば、あの方は何日だって話し続けられるタイプですわよ?きっと。


 だから私は理解できないのですが……


 ナタリーは当然困り果て、



「えーっと、形がキレイだと思いませんか?」




「そうだね、この形は何とかといって、うーだらかーだら」



 私からしたら何を言ってるのか分からないので呪文にしか聞こえないのだが、


 ナタリーが困り果てているのは明らかである!




「えーっと無理ですわ!」



 こう言ってナタリーは逃げていった。



 馬鹿ね、同調してどうするのよ……



 ヨーゼフ様の石好きはガチのガチよ。


 ハッキリ言って私も一切理解できない、何であんなに石に情熱を持てるのか、ヨーゼフ様が好きでも一生共感できませんわ!


 でもそれで構わないの。



 だって、ヨーゼフ様が石を好きだからこそ、あんなに情熱的に石のことになると語り出す……



 それを想像できることが、共感だと思っているのだから……


 だから共感と同調は違うの、私がヨーゼフ様になる必要は無い、でもヨーゼフ様が石を好きなんだってことだけは分かる、それで充分じゃない?


 ヨーゼフ様もそれで充分だと思っているからこそ、私に聞かれない限り、石にについては語らない方なのよ!
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