恋色ノート


「花恋ごめん、今日多分もう客もこねえし店閉めるわ。玲のこと送ってくから、南央に色々教えといてやってくんない?」


「えっ。まぁ……わかった……」


「じゃ、頼んだ!」



 カランという音は、お客さんの帰りの合図でもある。
 呑気な音を立てた扉は閉まって、空間にわたしと、もうひとりだけになる。


「……」

「……」


 妙な沈黙が、しばらく続く。


 自分から話しかけるのは得意ではないけど、ここはわたしを唯一出せる場所なんだよ、きっと大丈夫。ここはわたしのフィールドだ。


 それにわたしは僚くんに頼まれたわけだし……。思い切って口を開いてみる。



「えっと……まず、自己紹介しませんか!?」



 勢い余りすぎたのが恥ずかしくて下を向いてしまう。
 おそるおそる顔を上げてみると、さっきわたしに見せたように少しだけ柔らかな笑みを浮かべていた。



「藤沢南央(ふじさわ なお)。ここで働くことになったから、よろしく。三浦花恋、だっけ?」


「え!?なんでわたしの名前……」



 思わぬところからわたしの名前が出てきてまたも大きな声を出してしまった。


 なんで、この人がわたしの名前を知ってるの……?





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