酸素の音や香に名をつけて
空、音、君。
海王星は溶けるまで
海王星は溶けるまで
じりじりと照らしてくる太陽を背に歩いていた。買ったばかりの青色のソフトクリームが形を崩していく。垂れそうなところをぺろりと舐める。ミルクの甘さとソーダの香りが口内に広がって残りのアイスを一口で食べる勢いで口の中に放り込んだ。キーン、と冷たさを感じる。喉が一瞬ヒリヒリする。顔を天に向けてコーンを噛み砕く。空を見上げるとふと、彼のことが脳裏によぎる。恐らくもうほぼ会う機会はない。宇宙飛行士の彼氏は天王星や海王星あたりを見にいくという。それを告げられた時、彼の目には決心の奥に葛藤があったー気がした。婚約までして同棲したのだから多少悩んだだろう。だが彼の幼い頃からの夢を無下にはできなかった。辛くないと言えば嘘になる。彼を応援したいのも本当で、彼にずっと側にいて欲しいとか思う自分の身勝手さも、痛いほど実感した。スマホで簡単にLINEもできない状況で最近は連絡もあまりなくて、彼の安否もわからないがきっと帰ってくると信じてる。あの展望台の下で待ち続けていたらきっといつか彼が「待たせたな!」とか言って戻ってきて、いつもの日常が戻るのではないか。そう思わないと辛かった。だから海王星がいつか太陽に呑まれそうになって溶け始めるその日まで、彼を待ち続けようと思った。
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ごめん、約束果たせそうにない。苦しくなる胸を痛いほど抑えながら呼吸する。もう諦めて目を瞑る者、必死に踠く者、冷静を装う者もいた。ただもう希望は殆どないとだけ、頭の中ではわかっていた。ポケットの中から硬い物を取り出す。チェキを入れている小さい箱だ。一枚目、彼女の写真。まだ出会ったばかりで初々しくて幼さの面影が残っていた頃。二枚目、交際して数ヶ月、プラネタリウムに行った時の写真。あの頃より少し大人っぽさがあった彼女と背後に映る星。三枚目、お揃いの夜空コーデでイルミネーションを見に来た時の写真。手に星空をイメージしたプラっぺを持った彼女はどこまでも愛おしかった。四枚目、五枚目、六枚目。七枚目は交際して初めて展望台に来た時。十四枚目も二十八枚目も、毎年大人っぽさが増す彼女と綺麗な夜空と隣にいる自分。めくればめくるほど彼女との思い出が鮮やかに蘇ってくる。最後の一枚、飛行船が旅立つ前に彼女と撮った最後の一枚。さいご…だ。本当の意味で。もう撮ることはないだろうから。少し目が潤んでいた彼女の愛おしい最後の一枚を優しく、けれども強く抱きしめた。涙は頬を濡らさずに空中に散っていった。神様へ、僕からの今世の最期のお願いです。彼女に僕を忘れさせてください。お願いします。
途絶えた吐息が碧かった。
じりじりと照らしてくる太陽を背に歩いていた。買ったばかりの青色のソフトクリームが形を崩していく。垂れそうなところをぺろりと舐める。ミルクの甘さとソーダの香りが口内に広がって残りのアイスを一口で食べる勢いで口の中に放り込んだ。キーン、と冷たさを感じる。喉が一瞬ヒリヒリする。顔を天に向けてコーンを噛み砕く。空を見上げるとふと、彼のことが脳裏によぎる。恐らくもうほぼ会う機会はない。宇宙飛行士の彼氏は天王星や海王星あたりを見にいくという。それを告げられた時、彼の目には決心の奥に葛藤があったー気がした。婚約までして同棲したのだから多少悩んだだろう。だが彼の幼い頃からの夢を無下にはできなかった。辛くないと言えば嘘になる。彼を応援したいのも本当で、彼にずっと側にいて欲しいとか思う自分の身勝手さも、痛いほど実感した。スマホで簡単にLINEもできない状況で最近は連絡もあまりなくて、彼の安否もわからないがきっと帰ってくると信じてる。あの展望台の下で待ち続けていたらきっといつか彼が「待たせたな!」とか言って戻ってきて、いつもの日常が戻るのではないか。そう思わないと辛かった。だから海王星がいつか太陽に呑まれそうになって溶け始めるその日まで、彼を待ち続けようと思った。
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ごめん、約束果たせそうにない。苦しくなる胸を痛いほど抑えながら呼吸する。もう諦めて目を瞑る者、必死に踠く者、冷静を装う者もいた。ただもう希望は殆どないとだけ、頭の中ではわかっていた。ポケットの中から硬い物を取り出す。チェキを入れている小さい箱だ。一枚目、彼女の写真。まだ出会ったばかりで初々しくて幼さの面影が残っていた頃。二枚目、交際して数ヶ月、プラネタリウムに行った時の写真。あの頃より少し大人っぽさがあった彼女と背後に映る星。三枚目、お揃いの夜空コーデでイルミネーションを見に来た時の写真。手に星空をイメージしたプラっぺを持った彼女はどこまでも愛おしかった。四枚目、五枚目、六枚目。七枚目は交際して初めて展望台に来た時。十四枚目も二十八枚目も、毎年大人っぽさが増す彼女と綺麗な夜空と隣にいる自分。めくればめくるほど彼女との思い出が鮮やかに蘇ってくる。最後の一枚、飛行船が旅立つ前に彼女と撮った最後の一枚。さいご…だ。本当の意味で。もう撮ることはないだろうから。少し目が潤んでいた彼女の愛おしい最後の一枚を優しく、けれども強く抱きしめた。涙は頬を濡らさずに空中に散っていった。神様へ、僕からの今世の最期のお願いです。彼女に僕を忘れさせてください。お願いします。
途絶えた吐息が碧かった。
