こっちを向いて、ヴェルランド。
Ⅴ【ゼロ部隊】
リヒトの自動式荷車が王国シリウスに到着したのは、リーリエに別れを告げた三日後の事だった。
「よう、相変わらずよく働くな」
リヒトが王国前の検問所に辿り着くと、一人の兵士に声をかけられた。
「おう、お前も相変わらずだな、そろそろ転職でもしたらどうだ?」
「馬鹿言うなよ、商人より王国兵士として体張った方が儲かるってもんよ」
兵士はそう言ってリヒトから通行パスを受け取ると、それを端末へと翳す。
「にしても、最近やけに厳重だな。俺は元ゼロ部隊出身だぞ、顔パスでいいだろ、顔パスで」
リヒトは退屈そうにハンドルに両手を預けるとイラつきながら通行パスの承認を待つ。
「無理言うな、最近戦争の影響で変なテロリストが増えてんだ。お陰で俺たち兵は毎日大忙しだ」
兵士の男はそういうと、懐から一本のタバコを取り出してリヒトに手渡す。
「そういや、あいつはどうした?ほら、あの無口な色男。お前よく一緒に仕事してたろ?」
兵士の男はタバコを蒸すとフーと大きく息を吐く。
「色男だ?、あぁ、もしかしてヴェルランドの事か?」
リヒトは眉を顰めながらタバコに火をつける。
「そいつ、そいつ。無口で女みたいな風貌のくせに訳わかんねぇくらい強かったろ?」
兵士の言葉にリヒトは苦笑する。
「いつの時代の話してんだ。あいつとはもう二十年以上会ってねぇよ」
「じゃあ、あの話は本当だったんだな?」
「あの話?」
「ほら、当時まだ若かった国王陛下の嫁さんと駆け落ちしたって話」
一体、どこからそんな話を聞いてくるのか。兵士はなおも興奮気味に話を続ける。
「当時、国王に支えていた女中達が嘆いてたそうだぜ?リリィ女王はとんでもなくふしだらな女だって、きっとヴェルランドを拐かしたに違いないって」
酷い言われようにリヒトは思わず顔を顰めた。
「おいおい、ちょっと待て。ヴェルランドは確かにリリィ女王に恋していたが、あいつはちゃんと立場をわきまえて接してた。それにリリィ女王だって同じだ。拐かしてなんかいない。国王陛下が勝手に勘違いしちまっただけさ。不倫も駆け落ちもしていない」
友人の名誉の為にリヒトは嘘偽りのない事実を兵士に伝える。しかし兵士の反応は微妙なものだった。
「でもよ。火の無いところに煙は立たないだろ?俺は絶対二人の間には何かあったに違いないと思うんだ」
兵士はそう言うと、承認結果の出た交通パスをリヒトに返す。
「でも、なんで今更んな大昔の事聞くんだよ?」
「何でも国王陛下のお気に入りの捕虜が一人逃げ出したらしい」
「捕虜?」
「噂じゃその女が、リリィ女王にそっくりな女だったらしくてな。国王陛下はいたく気にいっていたらしい」
「相変わらず頭のイかれた野郎だな。リリィ女王を処刑したのは他でもない国王陛下本人だろ?」
リヒトは不愉快そうに自動式荷車のエンジンを入れる。
「それもそうなんだけど、何でもそっくりなのは風貌だけじゃねぇって話だ」
「どう言う意味だ?」
「名前だよ。その女の名前が女王陛下にそっくりなのさー。」