こっちを向いて、ヴェルランド。
突然の音に驚きつつも、リーリエは慎重に扉の覗き穴から来訪者の顔を伺う。
しかし、外には人らしき人影は見当たらない。
(聞き間違えかしら?)
リーリエは、怪訝そうに首を傾げる。しばらく扉の内側から耳を澄ませていると、再び扉を叩く音が響いた。どうやら、何かの棒で扉を叩いているようである。
悪戯ならば、できるだけ相手をしたくないと思いながらも、何度も何度も扉を叩く音に少し腹が立ったリーリエは、文句の一つでも言ってやろうと思い切って扉の外に顔を出す。
「い、一体何事ですか?!」
すると、自分の視線より遥か下の方に数人の小さな子供達が立っていた。子供達はとても驚いた様子でリーリエの顔を凝視している。
「ほら、俺の言った通りだったろ?」
子供の一人が得意げに口を開く。
「うわ!本当だ!」
「魔女だ!魔女だ!」
キャハキャハと笑いながら、自分の顔を指差す子供達にリーリエはわかりやすく顔を顰める。
「おい、女!」
「その失礼な口の聞き方は何です?私はリーリエです!」
自国にも当然子供はいたが、ここまで礼節の欠けた態度で接してくる子供は初めてである。
「うるさい!女!お前がここに住む魔獣の手下だって事はわかってんだ!」
「魔獣?、この屋敷にそんな魔獣は住んでおりませんが?」
「嘘だ!、母ちゃんが昔から言ってた!この屋敷には恐ろしい魔獣が住んでるんだって、だからここに住んでるやつは皆んな魔獣の仲間なんだって!」
少しムキになって喋る子供にリーリエは頭を抱える。一体全体、ヴェルランドは何を誤解されているのやら。
「では、貴方達のお母様にお伝えください。ここの屋敷に魔獣なんて住んでいないし、住んでいるのは一人の心優しい?主人だけです」
まぁ、この際優しくなくてもいいが一応助けてもらった身の上である。変な誤解は解いておく方が親切というものだろう。
「そもそも、貴方達はこの屋敷に入った事があるのですか?」
「ある訳ねぇじゃん!ばーか!」
相変わらず躾のなっていない子供にリーリエは目頭を抑える。
「では、実際にその魔獣を見た訳はないのですね。きっとお母様は屋敷内で変に迷われてしまっては困ると思いそんな出鱈目を言うのです」
「母ちゃんは見た事ないけど、俺の爺様は見たぞ!」
「では、そのお爺様は魔獣に何かされたのですか?」
「そう言う訳じゃ無いけど…」
途端に黙り込んでしまう子供に、リーリエは苦笑する。口が悪いといえど、やはり子供は子供だ。
「いいですか。人伝に聞いた話というのは鵜呑みにしてはいけません。大事なのは自分の目で確かめる事。人は皆誰かから聞いた話をさも自分が経験したかのように語りますが、それは大変危険です」
リーリエの言葉に子供達は素直に耳を傾ける。
「もう一度言いますが、ここには魔獣はおりません。何でしたら中に入って確認していただいても結構よ?」
リーリエはそう言うと、扉を全開に開いて子供達を手招きする。しかし、誰一人として屋敷野中へと入る者はいない。
「や、やい!女!お、俺は騙されないからな!」
子供の一人がそう叫ぶと、子供達は「逃げろー!!」と声を上げながら方々に散って行った。
「雨なのに元気だこと…」
リーリエは子供達の背中を見送ると、疲れ切った表情で扉を閉める。
それにしても、何故村の人間達は一様にこの屋敷を君悪がるのか。
「魔獣って言ってたけど…」
リーリエはシンと静まり返った屋敷の中を見回して小さく身震いをする。
「まさか…、嘘よね…」
きっと子供達の悪い戯言に過ぎない。
リーリエは両肩をさすりながら俯き加減に大広間へと戻る。すると、不意に誰かの身体に衝突した。
驚いたリーリエは慌てて上を向くと、そこには不機嫌な様子の家主が不思議そうに首を傾げている。
「…」
「…なんだ」
「い、いえ。それはこちらの台詞かと…」
リーリエはヴェルランドから距離を取ると、少し警戒心を露わにする。まさかこの男が魔獣?いや、まさか、そんなわけあるまい。
「寒いのか?」
「え…、あーいや、そういう訳では…」
なんと答えて良いかわからないリーリエは、視線を逸らす。魔獣の噂を聞いて怖くなりました。なんて口が裂けても言えない。
「…」
「…えっと、その」
何か話さなくては。そう思うがどうにも言葉が出て来ない。すると、ヴェルランドは何を思ったのか、リーリエの小さな頭に、優しく手を置いた。
突然のことにリーリエは両目を見開く。
「先ほど来ていたのは村の子供達だな?」
「…はい」
「何を言われたのか知らないが、あまり本気にするな。毎度、毎度ああやって揶揄にくるのだ…。この屋敷に魔獣は居ない。だからそう怖がるな」
ヴェルランドは端的にそう言うとリーリエの頭から手を離した。どうやら彼なりに安心させようとしてくれたようである。
「…あ、ありがとうございます」
「…貴様はわかりやすい女だな」
何故かその言葉が、自分ではない誰かに向けられているような気がしたリーリエは訝しげに首を傾げる。するとヴェルランドは我に返ったように小さく咳払いをした。
「今後、リヒト以外の来客には顔を出すな…、わかったな?」
リーリエはその言葉に、小さく頷くと大人しく自室へと戻った。
(一体、どうしたのかしら?)
しかし、外には人らしき人影は見当たらない。
(聞き間違えかしら?)
リーリエは、怪訝そうに首を傾げる。しばらく扉の内側から耳を澄ませていると、再び扉を叩く音が響いた。どうやら、何かの棒で扉を叩いているようである。
悪戯ならば、できるだけ相手をしたくないと思いながらも、何度も何度も扉を叩く音に少し腹が立ったリーリエは、文句の一つでも言ってやろうと思い切って扉の外に顔を出す。
「い、一体何事ですか?!」
すると、自分の視線より遥か下の方に数人の小さな子供達が立っていた。子供達はとても驚いた様子でリーリエの顔を凝視している。
「ほら、俺の言った通りだったろ?」
子供の一人が得意げに口を開く。
「うわ!本当だ!」
「魔女だ!魔女だ!」
キャハキャハと笑いながら、自分の顔を指差す子供達にリーリエはわかりやすく顔を顰める。
「おい、女!」
「その失礼な口の聞き方は何です?私はリーリエです!」
自国にも当然子供はいたが、ここまで礼節の欠けた態度で接してくる子供は初めてである。
「うるさい!女!お前がここに住む魔獣の手下だって事はわかってんだ!」
「魔獣?、この屋敷にそんな魔獣は住んでおりませんが?」
「嘘だ!、母ちゃんが昔から言ってた!この屋敷には恐ろしい魔獣が住んでるんだって、だからここに住んでるやつは皆んな魔獣の仲間なんだって!」
少しムキになって喋る子供にリーリエは頭を抱える。一体全体、ヴェルランドは何を誤解されているのやら。
「では、貴方達のお母様にお伝えください。ここの屋敷に魔獣なんて住んでいないし、住んでいるのは一人の心優しい?主人だけです」
まぁ、この際優しくなくてもいいが一応助けてもらった身の上である。変な誤解は解いておく方が親切というものだろう。
「そもそも、貴方達はこの屋敷に入った事があるのですか?」
「ある訳ねぇじゃん!ばーか!」
相変わらず躾のなっていない子供にリーリエは目頭を抑える。
「では、実際にその魔獣を見た訳はないのですね。きっとお母様は屋敷内で変に迷われてしまっては困ると思いそんな出鱈目を言うのです」
「母ちゃんは見た事ないけど、俺の爺様は見たぞ!」
「では、そのお爺様は魔獣に何かされたのですか?」
「そう言う訳じゃ無いけど…」
途端に黙り込んでしまう子供に、リーリエは苦笑する。口が悪いといえど、やはり子供は子供だ。
「いいですか。人伝に聞いた話というのは鵜呑みにしてはいけません。大事なのは自分の目で確かめる事。人は皆誰かから聞いた話をさも自分が経験したかのように語りますが、それは大変危険です」
リーリエの言葉に子供達は素直に耳を傾ける。
「もう一度言いますが、ここには魔獣はおりません。何でしたら中に入って確認していただいても結構よ?」
リーリエはそう言うと、扉を全開に開いて子供達を手招きする。しかし、誰一人として屋敷野中へと入る者はいない。
「や、やい!女!お、俺は騙されないからな!」
子供の一人がそう叫ぶと、子供達は「逃げろー!!」と声を上げながら方々に散って行った。
「雨なのに元気だこと…」
リーリエは子供達の背中を見送ると、疲れ切った表情で扉を閉める。
それにしても、何故村の人間達は一様にこの屋敷を君悪がるのか。
「魔獣って言ってたけど…」
リーリエはシンと静まり返った屋敷の中を見回して小さく身震いをする。
「まさか…、嘘よね…」
きっと子供達の悪い戯言に過ぎない。
リーリエは両肩をさすりながら俯き加減に大広間へと戻る。すると、不意に誰かの身体に衝突した。
驚いたリーリエは慌てて上を向くと、そこには不機嫌な様子の家主が不思議そうに首を傾げている。
「…」
「…なんだ」
「い、いえ。それはこちらの台詞かと…」
リーリエはヴェルランドから距離を取ると、少し警戒心を露わにする。まさかこの男が魔獣?いや、まさか、そんなわけあるまい。
「寒いのか?」
「え…、あーいや、そういう訳では…」
なんと答えて良いかわからないリーリエは、視線を逸らす。魔獣の噂を聞いて怖くなりました。なんて口が裂けても言えない。
「…」
「…えっと、その」
何か話さなくては。そう思うがどうにも言葉が出て来ない。すると、ヴェルランドは何を思ったのか、リーリエの小さな頭に、優しく手を置いた。
突然のことにリーリエは両目を見開く。
「先ほど来ていたのは村の子供達だな?」
「…はい」
「何を言われたのか知らないが、あまり本気にするな。毎度、毎度ああやって揶揄にくるのだ…。この屋敷に魔獣は居ない。だからそう怖がるな」
ヴェルランドは端的にそう言うとリーリエの頭から手を離した。どうやら彼なりに安心させようとしてくれたようである。
「…あ、ありがとうございます」
「…貴様はわかりやすい女だな」
何故かその言葉が、自分ではない誰かに向けられているような気がしたリーリエは訝しげに首を傾げる。するとヴェルランドは我に返ったように小さく咳払いをした。
「今後、リヒト以外の来客には顔を出すな…、わかったな?」
リーリエはその言葉に、小さく頷くと大人しく自室へと戻った。
(一体、どうしたのかしら?)