こっちを向いて、ヴェルランド。
ⅩⅥ【魅惑の変装術】
二人はリヒトに連れられ、町外れにある一つの大きな倉庫へと案内された。
暗闇が支配する倉庫内に足を踏みいれると、三人の足音だけが寂しく庫内に木霊する。
「ちょっと、ここで待ってろ。明かりつけるからよ」
リヒトは二人にそう告げると、どこかへと姿を消してしまった。
「…」
少し肌寒いのか、リーリエは自身の両腕をさする。
「寒いのか?」
「いえ…、何と言うか、こう言う暗闇はあまり好きではなくて…」
リーリエの反応にヴェルランドは何か思案する様に腕を組む。
「…なるほど。私とは正反対だ」
「正反対?」
「あぁ、私は明るい方が苦手だ…」
ヴェルランドの言葉にリーリエは思わず微笑む。
「明るいのは、お嫌い?」
「嫌いでは無いが明るい場所の方が不安になる…。全てを見透かされている様な気がして」
ヴェルランドはそう言うと視線を逸らす。
「そうですか…。私は暗闇の方が不安です。何だか飲み込まれてしまう様な気がして」
ダンゼルの元から逃げ出したあの夜も、闇に飲まれない様必死だった。
一面の静寂ー、
光のない世界ー、
自分と言う形が消滅していく感覚ー。
リーリエはあの時の恐怖を思い返して身震いをする。
「確かに、闇は油断すれば直ぐに呑まれてしまうな。だが心配することはない。暗闇には必ず私がいる。闇に飲まれそうになった時は私の名を呼べ。必ず駆けつける」
ヴェルランドはそう言うと、おもむろにリーリエの前に手を差し出した。
「まぁ、それはそれで驚いてしまうわ」
リーリエは嬉しそうにその手を取ると、ヴェルランドは優しくリーリエの手を握った。
「でも、覚えておきます。暗闇には必ず貴方が居てくれる事を」
「あぁ、そうしてくれ」
「そのお礼と言っては何ですが、この先貴方が光に怯えることがあれば、私がいる事を思い出してください。私は貴方の全てを受け入れます。どうか怖がらないで」
リーリエも同じ様に、そう告げるとヴェルランドの手を包み込む様に強く握った。
「あぁ、そう思う事にしよう…」
その言葉を合図に倉庫内の電気が一斉に点灯する。
「そうか、お前は光が弱点だったか。んじゃ、全部明るくしてやるよ」
戻ってきたリヒトに揶揄われたヴェルランドはわかりやすく顔を顰める。
「盗み聞きとはいい後身分だな…リヒト」
「盗み聞きだと?、丸聞こえなんだよ全部。女といちゃつきてぇんなら倉庫は避けるべきだな」
「いちゃついて何かいません」
リーリエは反論する。
「ヘイヘイ。わかりましたよ。んなことより、何に変装すんだ?」
リヒトの言葉にリーリエは少し驚いた表情で倉庫内を見渡す。
「凄い…、これって全部お洋服?」
大きな倉庫の中には、ズラリと衣服が立ち並び、まるで高級ブティックの様な内装にリーリエは瞳を輝かせる。
「ドレスから、浮浪者、旅商人、何でもござれだ。必要ならズラも用意してるぜ?さぁ何に変装する?個人的にはヴェルランドのボロマントを変えてやりてぇんだが…」
「私の変装は結構だ。彼女の装いを出来るだけ目立たないものにしてくれ」
ヴェルランドの要望にリヒトは「ツレねぇ奴だな」と愚痴をこぼす。
「んじゃ、お嬢さん。あんた好みの服を何着か持ってこい。俺がそれを町娘っぽくコーディネートしてやるよー」