こっちを向いて、ヴェルランド。
突然声を掛けられたことに驚いたリーリエは思わず銀のカップを床に落としてしまう。

再びカランと大きな音が響くとリーリエは慌てて声のする方へと光を翳す。

そこには、黒いマントに身を包んだ長身の男が古風な銃を構えて立っていた。

「…」

リーリエは驚きのあまり言葉を失うと、男は不愉快そうな表情で再び口を開いた。

「そこで何をしている…」

「え、えっと、すみません。私、その…」

想像とは違った家主の雰囲気にリーリエは少しばかり恐怖心を覚える。今、目の前で自分に銃を構えている男は明らかに一般人の風貌ではない。

赤く光る眼光は鷹のように鋭く、その視線は氷のように冷たい。きっと今までに何人も人を殺めてきたに違いない。

「もう一度聞く、この部屋で何をしていた」

男は痺れを切らしたのか、銃を構えながらリーリエとの距離を詰める。

「わ、私は、そのお礼が言いたくて…」

「…礼だと?」

「えぇ、だって部屋に運んで暖かい毛布をかけてくれたのは貴方なんでしょう?」

リーリエの言葉に男は一瞬、目を細めるがすぐに先程の冷たい表情へと戻る。

「礼なら結構だ。それに貴様を助けようとした訳ではない」

「で、でも…」

「あの場で死なれては困ると思ったまで…。元気そうなら早々にこの屋敷から立ち去れ」

男の冷たい一言にリーリエの瞳が揺れる。

「それから…、この屋敷の中の物を勝手に触るな、私の物ではないが、私の大事な人の物だ…」

男はそこまで言うと、ようやく銃を下ろし踵を返す。

「お、お待ちください!」

リーリエはそんな男の背中に慌てて声をかける。

「お、お願いです。一晩だけここに泊めてはいただけないでしょうか?」

「…」

「あ、明日、雨が止んだら早々に出て行きますから…どうか一晩だけ…」

リーリエの願いに男は足を止める。そして、少しの沈黙を貫くと諦めたように小さくため息を吐いた。

「では、一晩だけ…。それ以降の滞在はどんな理由があっても認めない」

「わ、わかりました…」

リーリエの返答を聞き終えると、男は早足にその場を去っていった。

(びっくりした…)
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