乙女ゲームの親友ポジに転生した天才チート系令嬢、ストーリーのそのあとの方が大変だった件

 魔族国は魔力が豊富。
 それによりアーレシュア王国では貴族も気軽に来れる場所ではない。
 魔力の少ないアーカーは来て早々に魔力過多による魔力酔いをしたから、「常に魔力を消費し続ければいいと思うわ」と言ったら本当にそれ以降ずっと身体強化で魔力消費を続けている。
 アーカーはそのうちこの土地に適応して『剣聖』と呼ばれるに相応しい人間になるだろう。
 エルワーズも、魔法を無限に使い続けられるような魔法師になるはずだ。
 だって使いたい放題だもの、魔族国。

「我が国が他国に出荷できるようなものがあるのでしょうか?」
「だから、それを作るのですわ。たとえばこの魔物肉も、魔族国以外では食べませんのよ」
「ええ……!? 人間の国ではなんの肉を食べているのですか!?」

 なかなかにすごい質問だ。
 魔族国にも家畜はいるはずなのだけれど。

「魔力を持たない家畜が飼われているのですよ」
「魔力を持たない家畜……!?」
「逆にこの国ではどんなものにも魔力が宿っているでしょう? アーレシュア王国をはじめ、人間の国ではどれもこれも珍しいと思いますわ。ただ、やはり海外と交易を行うにも地盤がしっかりとしていないといけません。ディブレ様はわたくしが来る前に魔族国各地を巡り、此度の魔王出現による被害状況を確認しておられたと聞いております。それを教えていただけませんか?」

 聞くのは正直、つらい。
 魔王討伐の旅の最中でさえ、いくつかの村が襲われ人が亡くなっているところを見た。
 ルナーシャやアルカは主人公らしく魔王討伐への意欲を燃やしていたが、その意欲を引き出すための“不幸”に見舞われている魔族国の人々に同情と責任を感じてしまう。
 ゲームの世界だとは知っているけれど、ここがゲームの中だとは思っていないから。
 シナリオの通りに進むために、亡くならなければならなかった人たちを悼むのは人として当然だと思いたい。
 そのくらいの感情、私にもまだ残っている。
 そう、私にもちゃんと人の心が残っているのだ。
 表情筋や家族への信用信頼は死んでいるけれど。

「そうですね――想像以上に……」

 ディブレはそこで一度言葉を区切る。
 綺麗な顔が伏せられ、それだけで現在の魔族国の状況が察せられてしまう。
 そうだろうな、と思う。
 私とルナーシャとアルカだけで、生み出される汚染魔物をすべて倒して回れたかと言われればそうではない。
 魔王の“出産”は一度につき五十体近くの小型汚染魔物から、一、二体の中型汚染魔物のどちらか。
 頻度で言えば圧倒的に小型五十体が多い。
 小型汚染魔物の幼体は十体ほどで群をなし、各地の魔物を含む生物を襲い、吸収を図る。
 魔法を使わず身体強化の魔法のみで応戦すれば、魔族でも戦えないことはない。
 しかし、汚染魔物は魔力を汚染して食う。
 身体強化魔法に使う魔力を汚染されれば、抗う術がどんどん奪われる。
『聖者の紋章』の護りがない魔族は奪われるがままだっただろう。
 そうして魔力だけでなく心身も食い尽くされ、吸収され、小型汚染魔物は(さなぎ)を経て成虫に進化する。
 生まれながらの中型汚染魔物は食った物量がそのまま自分の物量に吸収されるため、食らった生き物によっては私たちが今食べている通常の大型魔物よりも巨大化する性質を持つ。
 どちらが厄介かと言われればどちらもそれぞれ違う厄介さがある。
 汚染魔物がそれなりの知性を持つ前に魔王討伐を果たし、魔王の被害が魔族国を出る前に抑え込むことができたと賞賛されてはいるけれど、魔族国国内の被害は甚大。

「存在していた村が三十五のうち十に減っており、町は五ヶ所が壊滅。人口にすればほぼ半数以下となっています。特に損害が大きいのは魔王が誕生した海岸沿いの小さな村、オパクスの付近の損害は計り知れない」
「それは――」

 本当に想像以上の損害ね。
 魔族は百年に一度魔王が生まれてくる。
 百年かけて復興しても、百年後にまた、魔王が復活すれば滅びかける種族。
 復活した人口の半分にまで減ったというのなら、おそらく徐々に減り続けているのではないだろうか。
 これは……これはお見合いパーティーも開催した方がいいかもしれないわね。
 人口が増えなければ復興も遅くなる。

「まずは街道を作った方がいいですね。一度中心の町アガレスに集めて保護した方がいいかもしれません。そこから個々で聞き取りをして、故郷に帰りたい、故郷を復興させたい人はその支援をする、という形にしていくべきかもしれません」
「なるほど。確かに生存者を一度集めて今後の方針を伝えた方がいいかもしれないな」

 ついでに、アガレスに集めることで新しい出会い……お見合いになるかもしれない。
 そこで新しい家庭を築いて、好きな人の故郷の復興を頑張ろうって気持ちになってくれるかも。
 あとは普通に人口、市民の確認と管理。
 戸籍の概念があるのかはわからないけれど、滅んで過ごしにくい土地にせっかく生き残った人々を置いておくのは危険が多すぎる。
 汚染魔物は魔王が自分を守るために呼び寄せ、かなりの数を撃破できた。
 しかし、残党がいないとも限らない。
 復興する町や村の周辺の安全確保は必須。
 人口がそこまで減っているのなら、故郷に帰りたくても帰すわけにはいかない人もいる。
 故郷が近い人同士で安全確保後に新しい町や村を作ってもらうのが、正直効率いい。
 もちろん心情的に納得できない、という人もいるだろう。


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