想いはきっと痛くない
それから数分、教室に向かったが、なぜか藤堂くんの姿は見えない。

屋上?と思って言ってみたが、今日は立ち入り禁止となっていてそもそも階段が登れない。

流石に彼も人が多くなる日、こんなところに入らないだろう。

「休み」という言葉が一瞬頭を過ったけど、靴箱を確認したら靴はあったので校内にはいるらしい。じゃあ、どこ?


「……保健室?」


唐突に思い浮かんだ。

でも、昨日あんなに拒絶した彼が、自ら行くだろうか?

……でも、可能性は、無くせない、かな。

行って、いなかったら……今日は、諦めよう。そうしよう。

大丈夫。いないかもしれない。でも、いるかもしれない。


ゆっくり深呼吸をして、扉に手をかけた。

ガラッなんて勢いはなくて、カラカラッと弱い音が鳴った。

ふわっと風が抜けた。


私がいつもいる場所に、彼はいた。

昨日と同じ、クラスTシャツで、じっと、ただひたすらに窓を見つめていた。

ああ、この光景、知ってる。


そして、きっといつもなら、これは逆なんだ。


「……藤堂くん」


私の声を捉えた瞬間、彼はすぐに振り向いた。


「……え、なんで梓月いるの?」


振り返った彼の瞳が大きく見開かれた。

そして、私が答える間もなく、立ち上がって私の横を通り過ぎた。

避けられてる。一瞬でそう理解した。

振り返って追いかけようとして、気が付いた。

もう、一般公開が始まってる。人が多くいる中、彼の背中が小さくなっていく。


「……追い、かけなきゃ」


自然とそう思った。

このままだと、もう会えなくなるかもしれない。そう思ったから。


私は、教室に行けない。そして、彼が来なければ私たちは合うこともなかった。
なら、彼が会わないという選択肢をした瞬間、会えなくなるかもしれない。

でも、そんなかんたんな話じゃなくて、彼はどんどん早足で行く。人の間を縫うように。

私はそんな器用なことできなくて、何なら今すぐこの場から抜け出したい。


「……待って、藤堂くん」


零れた声は、信じられないほど掠れていて、それでいて弱々しかった。

ほんと、弱いなって思った。

少し開けた場所に出たとき、ほんの少しだけ勇気を出して、駆けた。


「待ってよ、藤堂くん」

「……」


掴んだ手を、どうしたらいいのかわかんなかったけど、離しちゃいけないことだけはわかった。


「藤堂くん」

「……」


こっちも見てくれないし、完全に無視。

こんなの、初めてだった。

でも、止まってはくれた。そこは、変わんないなぁって、思った。


「藤堂くん、なんで逃げるの?」


……って、私のせいか。


「……逃げてない」


そっけなく返された。

少しだけ、こっちを向いた彼の目は、やっぱり少し逸らされていた。


「嘘……。じゃあ、なんで保健室にいたの?」

「……」


完全に黙られてしまった。

ふと気が付くと、廊下の真ん中でこんな会話をしていたことに気が付いた。

ほんの少し、視線が集まっているのも。


「……藤堂くん、こっち」


軽く引っ張ると、何も言わずついてきてくれた。

きっと、彼を掴んでる手は震えてる。呼吸が少し、浅いのもわかってる。


「藤堂くん、荷物は?」

「え、ないけど」

「そっか、よかった」


ゆっくり、息を吸った。


「ねぇ……抜け出しちゃお?」

「は?」
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