妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
第二章 監禁生活
 周囲の気配を感じ取り、眉をピクリとひそめた。
 重い瞼をゆっくりと開けると、視界に入ったのは豪華な彫刻が施された、見覚えのない天井。

「…………」

 どこだろう、ここは。自分の状況が理解できず、思考が停止する。

「起きた!?」

 その時、ヌッと顔を出した人物に驚きのあまり、ベッドから転がり落ちてしまった。

「エディア!?」
「はは、驚きすぎ!」

 エディアルドは肩を震わせクスクスと笑うが、説明して欲しい、この状況を。

 私は森で薬草採取していたはずだ。いきなりエディアルドが出現したと思ったら気を失い、目覚めたら知らない屋敷だなんて、驚きを通り過ぎている。

「こ、ここはどこ?」

 焦って周囲をキョロキョロと見まわすが、見覚えがない。広い部屋に豪華な調度品はどれをとっても高級品に思えた。

「まあ、そう焦らずに」

 にこにこと笑って私をなだめるが、焦るに決まっているわ!

「まずはここに座って」

 エディアルドは椅子を引いてくれた。目の前のテーブルには紅茶と焼き菓子が準備されている。

 まずは話をしようと思い、しぶしぶと腰かけた。
 エディアルドみずから紅茶を淹れてくれ私に差し出すと、前の席に腰かけた。
 心を落ち着けようと、紅茶を口にする。

「あ……美味しい」

 フワッと香る茶葉とあっさりとした飲み口に、少しだけ和んだ。

「気に入ってくれて良かった」

 エディアルドは嬉しそうに頬を綻ばせた。だが、紅茶の話をしにきたのではない。

「それで、なぜ私を連れてきたの?」

 それも無理やりに近い形で。質問するとエディアルドは目をキョトンとさせた。

「だって、何度誘ってもリゼットが来てくれないから。こうするしかないでしょ?」

 ダメだ、この子、誘拐みたいな手を使って、ちっとも反省していない。

 不自由な生活を強いることが多かったので、周囲はエディアルドの望みはなんでも叶えるのが普通になっていた。それが原因となり、わがままになった。この状況を考え、頭を抱えたくなった。

「そもそも私をどうやって連れてきたの?」

 エディアルド以外の人の姿は見えなかったが、どうしたのだろう。そもそもあの場に来たのだって――。

「ああ、簡単だよ」

 エディアルドは空間にスッと手を伸ばすと、そこから念じ始めた。

 禍々しい空気に包まれ、空間が歪み始めた。
 あれは闇の精霊の加護だ……!

「これで空間移動したんだ」

 得意げに微笑むエディアルドだが、この力の前では逃れられないと感じた。闇の精霊の加護をここまで使いこなせる人間はそういないだろう。

「言ってなかったけど、五大属性の精霊の加護を持っているんだ」

 少し照れくさそうに鼻をかくエディアルドだけど、うん、知ってる……。

「リゼットを屋敷に招待したいって相談したら、五大属性の精霊たちはみんな力を貸してくれたよ!」

 無邪気な笑顔で言うエディアルドだが、あなた、じゅうぶん使いこなしているのね。

 だったら、精霊も止めてよ、エディアルドを。
 そこまでエディアルドに忠誠を誓うのかと、頭がクラクラした。

 エディアルドは精霊の加護の力を抑えるための薬を長期間、服用していた。
 あまりにも巨大な力をその身に宿しているので、幼い頃は使いこなすことができず、暴走してしまうことが多々あった。そのため、薬の力で抑えていたはず。

 だが、成長するにつれ、薬では到底抑えることができなくなった、と描写されていた。もしかしたら、今も薬は飲んではいるけれど、意味がないのかもしれない。

「リゼットも光の精霊の加護があるだろう? すごいな」
「ええ、まぁ……」

 五大属性持ちに言われましても……な気持ちになるが、黙っていた。それにあまり精霊の加護を使いこなせていない。せいぜい、小さな光の球を作り出すか、薬草の効果が微増になるぐらいだし。

 紅茶を飲んでいる間も、エディアルドは上機嫌で見つめてくる。

「それで、紅茶を飲み終えたら帰してくれるの?」

 私が質問するとエディアルドは組んでいた手から顔を上げた。

「帰さないよ」
「えっ?」

 一瞬、聞き間違えかと思い、パチパチと瞼を瞬かせた。

「あははっ。そんなわけないじゃん。びっくりした?」

 急に噴き出したエディアルドにホッとした。

「しばらくゆっくりしていって。いっぱい話して遊んで満足したら、帰してあげるから!」

 ん? しばらく? 

「今日じゃないの? しばらくっていつ!?」

 思わず声が焦ってしまうが、エディアルドは呑気だ。

「うーん、飽きるまでかな?」

 エディアルドは人差し指を口に当て、しばし考える様子を見せるが、完全に面白がっている。

 私は絶望を感じ、テーブルに突っ伏した。
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