妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「あの後、荒れたよ。それこそ、自分を責めて手がつけられないほどに」

 容易に想像つくが、なだめるのに苦労しただろう。

「毎日リゼット嬢を気にしている。君を傷つけてしまい申し訳なくて、会わせる顔がないのだと思う。もし、リゼット嬢が元気な顔を見せてくれるのなら――」
「いえ、会いません」

 私が即答するとジェラールは小さく笑う。

「そのほうがいいだろうな」

 じゃあ、聞くな。
 そうとも思ったが、彼も薄々感じているのだろう、エディアルドの怖いほどの執着が私に向けられていると。
 平穏な暮らしを望むのなら、もう会わない方がいい。

「お互い、その方がいいのですわ」

 エディアルドは私に負い目があり、会いにこれないというのなら、もう拉致はされないと思いたい。

「時間がたてば、私のことなど忘れますわ」

 そして日々の生活に戻っていくだろう。治療費に慰謝料、私は十分な対応をしてもらった。それに不思議と責める気持ちにはならなかった。

 私が微笑むとジェラールは顔を逸らす。

「……果たしてそうだろうか」

 小さくつぶやいたが、物騒だったので聞こえないふりをした。

「そうだ、一つ、お願いがあるのですが。これを返していただけませんか?」

 私は自身の左手にはめられた指輪を見つめた。外してしまうと無くしてしまいそうだったので、今日までつけていたのだ。

 でも、やっと返せる。
 指輪を引き抜こうとしたが、なかなか抜けない。

「あれっ?」

 焦りながらも再度トライするが、頑として抜けようとしなかった。ど、どうしよう。エディアルドの母の形見だというし、こんな大事なものを返せませんでした、では済まないだろう。

 ジェラールも状況を察したようだ。

「それは指ごと切り落とすしか、手段がない」
「フオッ!?」
「冗談だ」

 真顔を向けられても、笑えないっていうの。せめて微笑みながら口にして欲しいところだ。

「仕方がない。返せる時がくるまで、待つしかない」

 ジェラールはそう言うが、私としては一刻も早く返したい。貴重な指輪だし、なにより指輪をはめた場所が場所だ。よりによって左手の薬指だなんて婚約中、もしくは既婚者じゃないか。

 こちとら婚約者どころか、恋の一つもしたことないわ!

「それでは、そろそろ――」

 ジェラールが紅茶を飲み干すと、腰を上げたので私も見送りに立ち上がる。

「ではリゼット嬢。お元気で」
「ええ、ジェラール様もお元気で」

 私たちはもう、これで縁が切れた。もとよりエディアルドを通じて知り合った関係だもの。もう、繋がることはない。だが、それでいい。ジェラールの存在はどうしてもエディアルドを引き寄せるだろうから。

 去り行くハモンド家の馬車を見送っていると、横からシアナが顔を出す。

「ねえ、お姉さま、ハモンド家のジェラール様がなんの用事だったの?」

 目を輝かせて聞いてくるが、肩をすくめた。

「前の舞踏会での忘れ物を届けに来てくれただけよ」
「なーんだ、つまんないの。素敵な出会いの始まりかと思って、ドキドキしたわ」
「そんなわけないでしょ、縁のないお方だわ、ハモンド家なんて」
「残念だけど、無理かぁ……」

 なにも知らないシアナは呑気な声を出す。でも、なにも知らないままでいい。
 これで良かったのだと深くうなずいた。

 それからは平和な日常が戻ってきた。少し心配したけど、エディアルドは姿を現すことはなかった。もう私のことを忘れ、立ち直ったのだろう。

 ああ、元気でやっているといいな。

 今回の件、私は恨んではいない。精霊の加護の力が暴走してしまったのは意図してじゃないし、五大属性の精霊をうまく扱えるのは、並大抵の人間では無理だろう。

 今では仕方がない事故だと思っている。もとより、暴走したエディアルドの前に飛び出していった、向こう見ずな私も悪かったのだ。

 エディアルドと出会ってから別れるまでは濃い時間だったが、今ではゆったりと時が流れている。シアナの病気も良くなってきたし、やはり環境を変えて正解だったのだろう。あと、相変わらず森へ行き、薬草採取をしているが、薬草も効果があったと思う。

 小説の描写ほど、残酷ではない時期にエディアルドに出会えて良かった。血は流れたが、シアナを失うことと比べたら、軽いことだ。

 それにもうエディアルドとは別々の道をゆく。そんな気がした。

 愛情表現が強く、拉致しちゃう強引さを持っていたけど、不思議と嫌いじゃなかったな。今ではもうバッドエンドは免れたと思ってもいいだろう。

 私は私で自身の家族と暮らしを大切にし、遠く離れた場所でエディアルドの幸せを、陰ながら祈っているわ。

 結局、ウィークスの別荘で半年間過ごした。シアナは完治したと言ってもいいほど、体調が良くなった。今ではもう、寝込むこともない。

 そして私たちは王都へと戻ったのだった。
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