20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

20 居酒屋

 夕方の五時過ぎ。
 私たちは駅から少し離れた所にある個室居酒屋に来ていた。

「シラフじゃ話せないのなら飲みに行く?」

 と、赤月君が言い出して私はまんまとその誘いにのった。
 案内された部屋には小窓があって、外の景色が良く見える。
 十一月の五時はもう暗くて、空にうっすらと星が見える。
 向かい合って座り、私たちはビールが入ったグラスを手にしてそれを高く掲げる。

「かんぱーい」

 私たちは声を重ねて言って、グラスを軽くぶつける。
 グラスに口をつけてビールを口の流しこむ。
 いっきに半分飲んで、私は大きく息をついた。

「あー、久しぶりに飲むとさいこーにおいしいねー」

 ニコニコ顔で言う私に、赤月君も頷く。

「あはは、そうだねぇ。俺も飲むのは久しぶりかも」

「家で飲まないの?」

「うーん、たまにしか飲まないかなぁ。動画の撮影とか、プラモ作ったりするから。飲んだ状態じゃできないし」

「それもそっかー」

 言いながら私はまたビールを胃に流し込む。
 やばい、すぐ一杯飲み終わるかも。
 席に設置されたタブレットを操作して、私は二杯目の飲み物を選ぶ。

「ヒスイちゃんは、家で飲まないの?」

「うん、そうねぇ。私もあんまり飲まないかな。飲むのは仕事の休みの前の日だけにしてる」

 二杯目のお酒を注文し、私はタブレットをスタンドに戻す。

「ヒスイちゃんは、休みの日っていつも何してるの?」

「都内にいたときは推し活……アイドルイベント行ったり、動画サイトでアイドルの動画あさったりしてたかな」

 私の私生活はほぼアイドルで埋められている。

「あはは、そうなんだ、ほんとアイドル好きだよね、ヒスイちゃん」

「だって可愛い子みると幸せになれるし」

 ビールを飲み干して言い、私は空のグラスを見つめる。
 あっという間に飲んでしまった。
 久しぶりに飲みに来たからかな、こういうところのビール、美味しく思えてくる。
 そこに料理が運ばれてきて、お皿がテーブルの上に並んだ。
 お刺身の盛り合わせにサラダ、揚げ出し豆腐。そして私が頼んだ、チューハイが入ったグラス。
 私は箸を手にして、小皿にお刺身をとりながら言った。

「私、お刺身食べるの久しぶりかもー」

「あぁ、ひとり暮らしだとなかなかお刺身なんて買わないよね」

「そうそう、お刺身高いもんねー」

 マグロとサーモンはわかるけど、あとなんだろう。
 
「いただきます」

 と言い、私はまぐろに醤油をつけて口に運んだ。
 お刺身おいしい。
 食事とお酒がすすんだ頃、私も赤月君も口が軽くなってくる。

「ヒスイちゃん、成人式の時に彼氏いるって言ってたよね」

「あぁ、そういえばそんな話したっけー。でもすぐ別れたんだよねー」

「そうなの?」

「そうそう。私あんまりそういう話ないよー。だって聞いてくれる? 前のお店で私、彼氏できたんだよ? だけど相手実は既婚者でさー。指輪してないし、結婚してるかとか恋人いるかとかの話、皆しないから全然知らなかった。しかも奥さんアメリカにいて、出産でこっちに帰って来ててそれで判明して」

 と、つい早口で話してしまう。
 あぁ、思い出したら腹が立ってきた。
 私は四杯目のお酒をぐい、と飲む。
 テーブルの向こう側にいる赤月君の目がすっと、鋭くなったような気がした。
 赤月君は三杯目のお酒のグラスを手に取り、顔を歪ませる。

「そんなことがあったんだ。ひどいね」

「でしょー? そんなの耐えられなくって私、上司に『こんなところで働けない』っていって異動を申し出て無理やり異動させてもらったの」

 怒りで思わず、グラスを置く手に力がこもる。
 すると赤月君は、驚いた顔をして笑った。

「すごい行動力だね」

「だって嫌じゃないの、そんな人と一緒にいるの。ちょうどね、こっちのお店のエンタメフロアーで社員探してて、でも皆断られてどうしようもなかったんですって。私はこっちが実家だったし、戻ってくるつもりだったからちょうどよかったの。予定よりかなり早くなったけど」

 もう少し都内での生活を楽しむつもりだったんだけど。そればかりは心残りだ。

「そうだったんだ。久留米さんから、たまにヒスイちゃんの話は聞いていたけど」

 久留米、という名前を聞いて私はばっと、赤月君の顔を見る。
 久留米美奈。男前な性格で、男女ともに交流がある子だ。
 中学からの同期で今も私が連絡を取っている数少ない友人だ。
 そして美奈は、赤月君とも仲が良くってそれで私たちはグループでよく遊んでいた。

「赤月君、美奈と連絡取ってるの?」

「うん、たまーにだけど。彼女とはゲーム一緒にやってるし」

 そういえば美奈はゲームが好きだっけ。
 私とはアイドルの話しかしなかったけど。
 
「そうなんだー。美奈から赤月君の話でてきたことあったかなー」

 首を傾げて思い出そうとするけど、お酒が入っているせいかあんまり頭が回らない。
 私は顎に手を当てて笑い、

「わかんないや」

 と言って、頭に手をやる。
 すると赤月君も楽しそうに笑う。

「あはは。俺もそんなにしょっちゅう聞いていたわけじゃないよ。たまに皆どうしてるかなーって話で出てきてただけだし」

「そうなんだー。赤月君はどうなの? 恋人とかいるの?」

 私は腕を組んで、ずい、とちょっと身を乗り出す。

「私ばっか喋るの不公平だよー。赤月君も教えてよ」

 すると彼は、お酒に口をつけたあと、曖昧に笑った。

「ひとりだけあるよ。でもすぐに別れたけど」

「そうなのー? えー、今の感じだとすっごいモテそうなのに」

 意外過ぎる。
 昔の事はわからないけど、今の感じだったら絶対に異性が放っておかないと思う。
 赤月君は首を横に振って言う。

「前職はけっこう忙しかったからね。働いている間にVチューバーも始めたし。もともと作ることが好きだから、楽しくなっちゃって。だから恋人とかいらなかったんだよねー」

「そうなんだー。もったいない」

 言いながら、何がもったいないんだろう、って思ったけど酔ってるし、で自分を納得させる。

「赤月君、絶対モテるでしょー。だってVチューバーやってるんだし」

「そんなの公言しないよ。久留米さんにだって言ってないし。リアルの知人友人には言ってないから」

 その言葉に、私は飲んでいるお酒を吹きそうになる。
 あぶないあぶない。
 私は口元をおさえてお酒を飲み込んだ後、目を見開いて赤月君を見た。
 赤月君は唐揚げを箸でつまんでそれを口に運んでいる。

「そうなの?」

「そうだよ。言わないよ、そういうの。イメージもあるし、誰かにいうメリットないからね」

 そっか。そうだよね。
 私は首を傾げて赤月君を見る。

「なんでそんな重大な秘密、私にさらっと教えてくれたの?」

「嬉しかったから」

 そう答えた赤月君は、本当に嬉しそうな顔で私を見ている。

「嬉しかった?」

「うん。だってどれだけ配信者がいると思う? 膨大な動画の中で、あれだけの手がかりで、ヒスイちゃんは俺を見つけてくれたわけでしょ? それが嬉しかったから」

「そんなのたまたまだよー」

 へらへら笑いながら私が言うと、赤月君は目をすっと細めて頬杖をつく。

「そんなたまたまでも、俺は嬉しかったからね。だから言いたくなったんだ。それに幼なじみだし。隠すこともないと思ったから」

 幼なじみ、っていう言葉がなんだか重く響く。
 幼なじみだから。
 そうね、私たちは幼なじみだ。
 なのに私は赤月君の事で知っていることが少ない。
 今でもプラモは好きで、可愛いクマのプラモを作っていて、ゲームも好きで、Vチューバーをやっている。
 赤月君、他にどんな顔を持っているんだろう。
 今、私は赤月君とのあいてしまった空白、を少しずつ埋めているみたいだった。
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