チーターとガレット

もしも明日、世界が終わるなら

1

 自動改札機を通ろうとしてICリーダーにスマホを当てると、ピンポン、と音が鳴り、扉が閉まった。
「すみません」
 竹本千枝は振り返って、すぐ後ろまで詰めてきていた中年男性に頭を下げた。舌打ちを浴びせかけられながら、帰宅を急ぐ人たちの流れに逆らって、精算機に向かった。

 まさか、電車で寝過ごすなんて。千枝は精算機に千円札を吸わせながら、帰宅までに少しでも仕事を進めようとして、わざわざ鈍行を選んだことを後悔していた。席に座ってパソコンを開いてからの記憶がない。
 今日はしっかり睡眠を取ろうと思っていた。だけど、その場所は電車じゃない。幸いなのは、乗り過ごしたのが一駅だったということだ。歩いても帰ることができる距離だった。

 人の捌けた北美鳥駅の改札を抜けて、駅を出た。肌に纏わりつくような熱風が、肩でそろえられた切りっぱなしの髪をさらっていく。
「せっかくだから、何かおいしいものを食べて帰ろう」
 千枝は仕事道具で肩に食い込む、ショルダーバックをかけ直し、久しぶりに北美鳥の町を歩いてみることにした。五年前の、就職のためのアパート探し以来だった。

 駅前ロータリーを取り囲むように建つビルの中で、今明かりが点いているのが駐輪場と駐車場だ。コンビニすらないのだが、住んでいる人は多いはずだから、外から来た人は知らなくても、地元の人たちが使うような店があるのかもしれない。
 ロータリーから路地に入ると、レンガ積みの洋風の家が立ち並んでいた。いくつかの住宅で庭をシェアする形になっているのか、広場や花壇などもあって、そこだけを写真に撮ったら、外国の街のようだ。
 その隣には古いアパートが二棟、通り過ぎるとまた、外国のような景観が広がる。

「お店とかできるのかなって思ってたけど、完全な住宅街になったんだ」
 以前訪れたときには、駅の近くにある様々なものが建築中で、ここがどんな町になるのか想像がつかなかった。
< 1 / 8 >

この作品をシェア

pagetop