凛とした執愛は甘いのか。

12話 可愛い後輩が

男二人の笑顔が固まった。え、誰?という表情。

え?なんでいるのこの人。とさくも固まった。

そして、
他人のふりをしようそれが最善だ。と瞬時に頭が決めた。

凛音はにこやかな顔を張り付けていたが、目だけが笑っていない。
獣が獲物を見定める時の目だ。ゆっくりと個室内を舐め回すように見渡した。

「あ、あの……どちら様ですか?」

男の問いには答えず、真っ直ぐさくの隣まで歩いてきた。そして当然のように隣に座る。

「よぉ、さく。迎えに来たで。」

…誰も呼んでいないのだが。

「迎え」という単語に個室が困惑で満たされた。女子の一人が「え、彼氏?」と小声で呟いた。

他人のふり作戦は「さく、迎えに来たで」の一言で一瞬で撃沈した。

「彼氏じゃないよ。えーと、職場の直属の上司なの。今、色々教えて貰ってて。ね?」

凛音に合わせろよと圧をかける。

「彼氏じゃないよ」が気に入らず眉がピクッと動いたが

「せやで。可愛い後輩が世話になってます。」

にこり、と営業スマイル。
完璧だった。声も柔らかい。別人のようだ。

「あはは、上司なんですね。かっこいいなぁ……。」

男の声が微妙に上ずっていた。本能が告げているのだ、この男には逆らうな、と。

凛音は注文タッチパネルを操作しながら

「生ひとつもらいますね。あと、この子もう帰るんで。」

と、有無を言わさぬ宣言。
「この子」と言いながらさくの肩にぽんと手を置く。所有を示すような自然な動作。
女子達がぽかんとしている。男たちは黙っている。

「す、すごいイケメンですね!あのっ、よかったら連絡先…!」

女子三人が凛音の前にスマホを突き出す。

その光景に、おいおいこの男はやめとけ。とさくは内心思っている。

「やめた方がいいよ」と言いたげな空気がさくからびしばし伝わってくるのが凛音は面白くて仕方ない。

「あー、ごめんなぁ。俺、彼女おるから。」

凛音の手がテーブルの下でさくの太ももに意味ありげにそっと触れる。

「なぁ、さく。」

同意を求める声。「な?」と首を傾げるその仕草は甘いが目が据わっている。

「…そ、そうなの。この人、彼女さんがいるから、三人ともごめんね。」

女子達は「えー、残念!」と口では言いつつも、どこかほっとした表情を浮かべていた。
凛音の放つ圧から解放されたのだ。
男達もぎこちなく笑いながらジョッキに口をつけた。

凛音は運ばれてきた生ビールを一口煽り、立ち上がった。
財布から万札を数枚抜いてテーブルに置く。

「ごちそうさん。足りんかったら使ってや。」

明らかな過剰金額。
個室に微妙な空気が流れた。「あ、ありがとうございます」と男が頭を下げる横で、凛音はもうさくしか見ていなかった。

「ほな行こか。」

「お、お騒がせしました。」

とさくはぺこりと頭を下げた。

さくを促して個室を出る。背後で「すごい上司だったね」「てか彼氏いるんだ」とひそひそ声が聞こえた。
凛音の口角がほんの僅かに上がった。「彼女」ではなく「彼氏」。訂正する気はなかった。

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