トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
「先生呼んできます!」

私は反射的にICUを飛び出した。

ナースステーションへ駆け込む。

「紗凪が反応しました!」

その瞬間空気が一気に変わる。

「ほんと!?」

「高城先生呼んで!」

「西国先生にも連絡!」

スタッフが一斉に動き出す。

私はそのまま紗凪の元へと戻った。

部屋の中。

陽貴さんは、信じられないものを見るみたいな顔で紗凪を見つめていた。

「紗凪……」

握った手を、もう一度呼ぶみたいに包み込む。

すると。

紗凪の指先が、また微かに動く。

弱い。

本当に弱い反応。

でも確かに、自分の意思で動いた。

お母さんが涙を零す。

「……紗凪……っ」

お父さんも、黙ったまま目を閉じた。

その時。

ICUの扉が開く。

「失礼します!」

高城先生、西国先生、担当医、看護師たちが一気に入ってくる。

モニター確認。

瞳孔確認。

刺激反応。

一気に空気が医療現場へ戻る。

「一ノ瀬さん、分かりますか?」

高城先生が声をかける。

「聞こえてたら、もう一回手握れますか」

数秒。

静寂。

そして。

きゅっ——

また、陽貴さんの手を弱く握った。

「……っ」

誰かが息を呑む。

高城先生がすぐ指示を飛ばす。

「鎮静浅くなってきてる」

「バイタル確認継続」

「呼吸状態注意して」

西国先生も、少しだけ表情を緩めた。

「反応戻ってきてるな……」

その声を聞いた瞬間。

陽貴さんの肩が、がくっと落ちた。

今までずっと張り詰めていた糸が、切れたみたいに。

そのまま俯く。

そして。

ぽたっ——

初めて。

涙が落ちた。

「……よかった……」

掠れた声。

震えていた。

「……っ、よかった……」

何度も繰り返す。

その姿を見て。

私は思わず目頭が熱くなった。

まだ安心なんて出来ない。

人工呼吸器も外れてない。

状態だって不安定。

でも。

それでも。

確かに紗凪は、“戻ろう”としていた。

陽貴さんは、涙を拭うこともせず。

ただ紗凪の手を握り続ける。

まるで。

もう二度と離さないみたいに。
< 142 / 242 >

この作品をシェア

pagetop