トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
その時だった。

「……お待たせしました」

後ろから声がして、私は振り返る。

シャワーを浴びてきた陽貴さんが、こちらへ歩いてきていた。

濡れた髪。

黒いマスク。

シンプルなキャップ。

ラフな服装なのに。

それでも、一瞬で目を引く。

やっぱり、芸能人なんだと思う。

圧倒的なスタイルとマスクから覗く素顔が隠しきれないくらい、整っていた。

少しやつれた表情が、逆に色気を増していて。

通り過ぎた看護師さんたちが、一瞬振り返るくらいには目立っていた。

でも。

そんなこと、本人は全く気にしていないみたいだった。

ただ。

「……戻りましょう」

それだけ言って、ICUの方を見る。

頭の中は、紗凪のことでいっぱいなんだと思う。

お母さんがふっと微笑む。

「少し顔色戻ったわね」

「……ありがとうございます」

陽貴さんが小さく頭を下げた。

その声は、さっきより少しだけ落ち着いていた。

私たちは三人でICUへ戻る。

廊下を歩きながら。

陽貴さんは自然と足が速くなっていた。

早く紗凪のところへ戻りたい。

その気持ちが伝わってくる。

ICUの扉が開く。

変わらないモニター音。

人工呼吸器の作動音。

消毒液の匂い。

でも。

そこに紗凪がいるだけで、空気が重い。

お父さんが椅子から立ち上がる。

「少し落ち着いてたよ」

低い声。

でも、その表情には疲労が滲んでいた。

陽貴さんは小さく頷くと、すぐベッドサイドへ向かった。

そして。

何も言わず、そっと紗凪の手を握る。

細い手。

冷たい指先。

陽貴さんは、壊れ物に触れるみたいに優しく包み込んだ。

「……ただいま」

掠れた声。

その瞬間だった。

ぴくっ——

私は目を見開く。

「……え」

紗凪の指が、動いた。

そして。

陽貴さんの手を、弱々しく——握り返した。

一瞬。

誰も動けなかった。

陽貴さんも、完全に固まる。

「……っ」

息を呑む音。

お母さんが口元を押さえる。

「紗凪……!?」

私も反射的にモニターを見る。

心拍が少し上がっている。

SpO₂も変動。

陽貴さんが震える声で呼ぶ。

「紗凪……?」

すると。

閉じられていた瞼が、ほんの少しだけ震えた。
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