トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
師長室を出たあとも。

私はしばらく廊下で立ち尽くしていた。

手の中の資料がやけに重い。

半年。大阪。

フライトナース育成支援チーム。

看護師としては、こんな機会そう簡単にもらえるものじゃない。

むしろ、憧れる人だってたくさんいる。

それなのに胸の奥は全然晴れなかった。

「紗凪?」

後ろから声がして振り返る。

そこにはカルテを持った梓が立っていた。

「……あれ、どうしたの」

「え?」

「顔」

梓が少し眉を寄せる。

「なんかあった?」

やっぱり誤魔化せない。

私は少し迷ってから、小さく息を吐いた。

「……師長さんに呼ばれてて」

「うん」

「大阪の病院から話きてるって」

「大阪?」

梓が目を瞬く。

私は手に持っていた資料を見せた。

梓が読み進めるうちに、その表情が少しずつ変わっていく。

「……え、すご」

小さく漏れた声。

「育成支援チームって、かなり大きいプロジェクトじゃない」

「みたい」

「しかも指導者?」

梓が顔を上げる。

「紗凪、それ普通にすごい話だよ」

その言葉が逆に苦しかった。

すごい話。

名誉なこと。

そんなの、自分でも分かってる。

でも。

「……半年だって」

ぽつりと呟く。

「大阪で働きながら、育成チーム支援もやるみたい」

その瞬間梓が少し黙った。

たぶん私が何を悩んでるのか察したんだと思う。

「陽貴さん?」

図星すぎて、何も言えなかった。

最近でさえ会える時間は少ない。

そこに大阪。遠距離。半年。

簡単じゃない。

「……断るの?」

梓が静かに聞く。

「分かんない」

即答できなかった。

「行きたい気持ちはある」

それは本心だった。

もっと学びたい。

もっと経験したい。

救命の世界で、もっと上を目指したい。

その気持ちはずっとある。

でも。

「怖い」

気づけばそう零れていた。

梓が少し目を細める。

「何が?」

「……全部」

離れること。環境が変わること。

陽貴くんとの時間。

今ある日常。

失うかもしれないって考えるだけで、不安になる。
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