トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
離れること。環境が変わること。

陽貴くんとの時間。

今ある日常。

失うかもしれないって考えるだけで、不安になる。

梓はそんな私をしばらく静かに見ていた。

そして小さく息を吐く。

「……まぁ、そりゃ悩むよね」

その声はすごく自然で。

「でも、とりあえず」

梓がカルテを軽く持ち直す。

「早めに陽貴さんに相談しな」

「……うん」

「あとで言う方が絶対拗れるから」

思わず苦笑する。

確かに。

絶対あとから知ったら落ち込む。

「なんかもう顔見えるもん」

梓が呆れたみたいに笑う。

「“半年!?無理なんだけど”って言いそう」

「……言いそう」

容易に想像できてしまって、少し笑ってしまった。

すると梓がふっと表情を柔らかくした。

「あとは、あんたの気持ち次第でしょ」

「私の……」

「そう」

真っ直ぐな声。

「紗凪が本当にどうしたいか」

その言葉が胸に刺さる。

私はずっと、“周り”を考えていた。

陽貴くん。

家族。

職場。

離れる不安。

でも。

自分自身がどうしたいかを、ちゃんと考えられていたかと言われると分からなかった。

「紗凪」

梓が静かに名前を呼ぶ。

「私は、どんな選択しても紗凪の味方だから」

その一言に、胸がじんわり熱くなる。

「大阪行くって決めても応援するし」

「断ったとしても、ちゃんと紗凪が悩んで出した答えならそれでいいと思う」

優しい声だった。

ちゃんと私自身を尊重してくれてる声。

それがすごく嬉しかった。

「……ありがとう」

小さく言うと、梓が少し照れくさそうに笑う。

「まぁでも」

「ん?」

「紗凪が大阪行ったら私普通に寂しいけど」

「ふふ、なにそれ」

「ICUは誰がまとめるのよ」

そう言いながら肩をすくめる。

でもその顔は少しだけ本当に寂しそうだった。

私まで胸がきゅっとなる。

PHSが鳴る。

梓が画面を見て、「うわ、またER」と眉を寄せた。

「ほら、現実戻るよ」

「うん」

「悩むのはちゃんと悩みな」

そう言って歩き出しかけた梓が、ふと振り返る。

「でも紗凪」

「ん?」

「その話が来たってこと自体、あんたが今まで頑張ってきた証拠だから」

その言葉に、私は小さく目を見開いた。

梓は少し笑う。

「そこはちゃんと誇っていいと思う」

そう言い残して、梓はERの方へ走っていった。

私はその背中を見送りながら、ぎゅっと資料を握りしめる。

——どうしたい?

頭の中で、その言葉だけが静かに響いていた。
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