トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
そしてベッドの上の紗凪もまた、ぼんやりした意識のままその背中を目で追っていた。

離れていく姿を。

寂しそうに。

名残惜しそうに。

ずっと見つめている。

その表情が、あまりにも分かりやすすぎて。

「……ふふ」

お母さんが、小さく笑った。

「やだぁもう」

肩をすくめながら、呆れたみたいに言う。

「私たちのことなんて、完全に置いてけぼりだわ」

その言葉に部屋の空気がふっと柔らかくなる。

お父さんも苦笑する。

「さっきから二人の世界だったな」

私は思わず吹き出しそうになる。

確かに。

さっきまでの空気、完全に周り見えてなかった。

でもそれくらいお互いが大事なんだって、痛いほど伝わってきた。

紗凪は、少しだけ恥ずかしそうに目を伏せる。

まだ喋る体力もないのに。

耳だけほんのり赤い。

「紗凪」

お母さんが優しくベッド横へ座る。

「すごく大事にされてるのねぇ」

その声に紗凪は小さく目を閉じた。

嬉しそうで。

でも少し泣きそうな顔。

私はそんな紗凪を見ながら、胸の奥がじんわり熱くなる。

本当によかった。

ちゃんと。

“帰ってきたい場所”がある人に出会えて。

そしてその人もまた、紗凪を心から大切にしてる。

それが、見てるだけで分かったから。

その時。

紗凪が小さく指を動かす。

お母さんがすぐ手を握った。

「なぁに?」

その瞬間。

〈はずかしい〉と。

部屋に小さな笑い声が広がった。

お父さんまで吹き出している。

「今さらだろ」

「ほんとよ」

お母さんが楽しそうに笑う。

紗凪は恥ずかしそうに顔をしかめながら、またゆっくり目を閉じた。

でもその表情は事故のあと初めて見るくらい、穏やかだった。
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