トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
風が、静かに吹いていた。

中庭の木々が揺れる。

遠くでは、またヘリのローター音が聞こえている。

私は泣いたまま、俯いていた。

森崎さんの手が、そっと頭に触れている。

優しい手。

すると。

森崎さんが、ふっと苦笑した。

「……ほんま、あかんな俺」

「……?」

私は涙で濡れたまま顔を上げる。

森崎さんは少し困ったみたいに笑っていた。

でもその目は、真っ直ぐだった。

逃げるみたいに一度視線を逸らして。

それから。

覚悟を決めたみたいに、もう一度私を見る。

「……俺にしやん?」

一瞬。

言葉の意味が分からなかった。

「……え……?」

掠れた声が漏れる。

森崎さんは静かに続ける。

「会いに来られへん彼氏のこと、そんな苦しそうに待たんでも」

「俺やったら」

そこで少しだけ声が震えた。

「ずっと紗凪ちゃんのそばおれる」

私は息を呑む。

森崎さんは、もう止まれないみたいに続けた。

「こんな顔、させへん」

「寂しい思いも」

「一人で泣かすことも、絶対せぇへん」

真っ直ぐすぎる言葉だった。

冗談じゃない。

慰めでもない。

本気の声。

私は完全に固まってしまう。

頭が真っ白だった。

だって。

そんな風に見られてるなんて、思ってなかったから。

森崎さんはずっと優しかった。

そばにいてくれて。

支えてくれて。

でもそれは、主任としてだと思ってた。

私は唇を震わせる。

「……もり、さき……さん……」

断らなきゃ。

そう思った。

陽貴くんがいる。

大好きな人がいる。

ちゃんと伝えなきゃ。

なのに。

言葉がうまく出てこない。

すると森崎さんが、ふっと小さく笑った。

少しだけ苦しそうに。

「……ごめん」

「困らせるつもりやなかった」

その声に、胸が痛くなる。

私は慌てて首を横に振る。

「ちが……」

でも続かない。

森崎さんは、そんな私を見て静かに言った。

「返事、今せんでええよ」

私は目を見開く。

「ゆっくり考えて」

「遅くなってもいい」

「……だから」

そこで少しだけ目を細める。

「明日からも、こうやって普通に接してな」

優しい声だった。

気まずくならないように。

私が困らないように。

そう言ってくれてるのが分かる。

その優しさが、余計に苦しかった。

そして

「でもさっき言ったことはほんま。
時間ある時にでも考えといて」

私は何も言えないまま、ただ頷く。

すると森崎さんが、困ったみたいに笑って空を見上げた。

「……伝える気、なかったのにな」

ぼそっと落ちた本音。

風に溶けそうなくらい小さい声。

でも。

その声が、やけに胸に残った。
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