トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
車の窓から見える東京の景色は、どこか懐かしかった。

流れていくビル群。

見慣れた道路。

赤信号で止まる車列。

大阪で過ごした半年が濃すぎたせいか。

たった半年離れていただけなのに、“帰ってきた”って感覚が強かった。

助手席でぼんやり外を見ていると。

運転していた陽貴くんが、ふっと笑う。

「なに考えてるの」

私は小さく笑った。

「……帰ってきたなぁって」

その言葉に。

陽貴くんが少しだけ目を細める。

「うん」

短い返事。

でも。

その声はすごく優しかった。

信号待ち。

陽貴くんが、そっと私の手を握る。

もう片手はハンドルを握ったまま。

その自然な仕草に、胸がじんわり温かくなる。

「……手、冷たい」

「緊張してるからかも」

「なんで?」

「なんか不思議」

私は少し照れながら笑う。

「陽貴くんの家、帰るの久しぶりすぎて」

その瞬間。

陽貴くんが、ふっと嬉しそうに笑った。

「“帰る”って言った」

「……え?」

「今、“帰る”って言った」

言われて気づく。

確かに。

自然とそう言っていた。

私は少し顔を赤くする。

すると陽貴くんが、たまらなそうに笑った。

「嬉しい」

「そんなことで?」

「そんなことじゃない」

真っ直ぐな声。

私はまた照れくさくなって、窓の外へ視線を逃がした。

でも繋いだ手だけは、離さなかった。

やがて車がマンションの駐車場へ入る。

エレベーターへ乗る。

隣に立つ陽貴くんが、何度も私を見る。

その視線に気づいて、私は小さく笑った。

「もう、なによ」

「いや」

陽貴くんが少し照れたみたいに笑う。

「まだ夢みたいで」

その言葉に、胸がきゅっとなる。

エレベーターが止まる。

扉が開く。

そして久しぶりの、陽貴くんの家。

玄関のドアが開いた瞬間。

ふわっと、懐かしい匂いがした。

柔軟剤の香り。

陽貴くんの香水。

生活の匂い。

全部。

全部懐かしい。

私は玄関へ入ったまま、少し立ち止まる。

「……懐かしい」

ぽつりと零れる。

陽貴くんが後ろで笑った。

「半年しか経ってないのに?」

「半年って長いよ」

私は靴を脱ぎながら、小さく笑う。

リビング。

ソファ。

キッチン。

見慣れた景色。

でももう戻れないかもしれないって思った日があったから。

こうしてここへ立てていることが、奇跡みたいに感じた。

私は静かに部屋を見渡す。

その瞬間。

後ろから、ぎゅっと抱きしめられた。

「……陽貴くん」

背中へ回る腕。

首元へ埋められる顔。

陽貴くんが、小さく息を吐く。

「……やっと帰ってきた」

掠れる声。

私はその腕へ、自分の手を重ねた。

「……うん」

すると。

陽貴くんがゆっくり身体を離して、私を振り向かせる。

真っ直ぐ目が合う。

その目が、あまりにも優しくて。

胸がいっぱいになる。

陽貴くんが、そっと頬へ触れた。

壊れ物を触るみたいに。

「会いたかった」

静かな声。

私は小さく頷く。

「……わたしも」

次の瞬間。

優しく唇が重なった。

触れるだけのキス。

半年分の想いが詰まってるみたいに、甘かった。

離れたと思ったら。

また触れる。

何度も。

何度も。

確かめるみたいに。

「……ん……」

息が漏れる。

陽貴くんが、小さく笑った。

「かわいい」

「……うるさい」

そう返した瞬間。

またキスされる。

今度は少し長く。

抱きしめられる力が強くなる。

まるで離れていた時間を埋めるみたいに。

私は自然と陽貴くんの服を掴んだ。

すると陽貴くんが少しだけ苦しそうに笑う。

「それ以上可愛くしないで」

額を合わせる。

近すぎる距離。

私は少し潤んだ目で陽貴くんを見る。

その瞬間。

陽貴くんの表情が、ぐしゃっと崩れた。

「……ほんと、生きててくれてよかった」

その声に。

胸が締め付けられる。

私はゆっくり陽貴くんへ抱きついた。

「……ただいま」

もう一度言う。

今度は、ちゃんとこの家で。

陽貴くんが、強く抱きしめ返してくれた。

「おかえり」

耳元で響く声。

その温かさに、涙が滲みそうになる。

私は顔を上げる。

陽貴くんが、すぐ涙に気づいた。

「え、なんで泣くの」

困ったみたいな声。

私は笑いながら首を横に振る。

「……幸せだから」

その言葉に。

陽貴くんが、泣きそうなくらい優しく笑った。

そして。

またそっとキスをくれる。

優しく。

甘く。

愛おしむみたいに。

半年分の寂しさを埋めるように。

私たちは長い間、離れられなかった。
< 221 / 242 >

この作品をシェア

pagetop