トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
——そして約束の日。

私は再び、師長室の前に立っていた。

コンコン。

ノックをすると、中から「どうぞ」と声が返ってくる。

「失礼します」

部屋へ入る。

師長さんはデスクから顔を上げると、優しく笑った。

「考えまとまった?」

その言葉に、私は小さく息を吸う。

この1週間。

何度も悩んだ。

陽貴くんのこと。

仕事のこと。

離れる不安。

今の環境。

全部。

でも、そのたびに思い出した。

“後悔しない選択して”

陽貴くんの言葉。

梓の言葉。

林くんの言葉。

そして何より。

——もっと救命を学びたい。

もっと成長したい。

その気持ちは、ずっと消えなかった。

私はまっすぐ師長さんを見た。

「……決めました」

少しだけ緊張で喉が震える。

それでもちゃんと、自分の言葉で伝える。

「行きます」

静かな部屋に、自分の声が響いた。

「大阪の育成支援チーム、参加したいです」

その瞬間。

師長さんがふっと目を細めた。

どこか嬉しそうに。

「そっか」

優しい声だった。

「悩んだでしょ」

「……はい」

正直に頷く。

すると師長さんが小さく笑った。

「でも、一ノ瀬ならそう言うと思ってた」

「あなた、結局“もっと上を目指したい”って気持ちを誤魔化せないタイプだから」

その言葉に、少しだけ照れくさくなる。

師長さんは書類へ目を落としながら続けた。

「向こうもかなり期待してるわ」

「育成だけじゃなくて、現場対応力も見込まれてる」

「半年間、大変になると思う」

その声は穏やかだけど、真剣だった。

「環境も変わるし、プレッシャーも大きい」

「でも」

師長さんが顔を上げる。

「あなたなら大丈夫」

真っ直ぐ言われて、胸が熱くなる。

「……ありがとうございます」

小さく頭を下げる。

すると師長さんがふっと笑った。

「それにしても」

「?」

「彼氏さん、よく許してくれたわね」

「っ……!」

一気に顔が熱くなる。

「な、なんで知ってるんですか」

「梓から聞いた」

「梓ぁ……!」

思わず頭を抱えたくなる。

そんな私を見て、師長さんが楽しそうに笑った。

「ちゃんと応援してくれる人がいるのは強いわよ」

その言葉に、自然と陽貴くんの顔が浮かぶ。

“俺はずっと紗凪のこと想ってる”

あの優しい声まで思い出して、胸がじんわり温かくなる。

不安がゼロになったわけじゃない。

寂しい気持ちも、きっとこれからもっと増える。

でも。私は前に進びたいと思った。

救命の世界で。

もっとたくさんの命を救える看護師になるために。

師長室を出る。

閉まったドアを見つめながら、私はそっと息を吐いた。

——ここからまた、新しい日々が始まる。
< 23 / 242 >

この作品をシェア

pagetop