トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
スーパーから帰る頃には、日はもう完全に沈んでいて。

私は両手いっぱいの買い物袋を持って、陽貴くんの家へ帰る。

玄関の扉を開ける。

「ただいま」

誰もいない部屋なのに、自然とそう言葉が出た。

“帰ってくる人”がいる。

それだけで、部屋の空気まで温かく感じた。

私はエプロンをつけて、キッチンへ立つ。

冷蔵庫を開ける音。

包丁の音。フライパンへバターを落とす音。

そんな生活音が、どこか心地いい。

ケチャップライスを炒めながら、私はふと笑った。

……オムライスであんな喜ぶんだ。

ほんと子供みたい。

でもそんなところも好き。

卵をふわっと焼く。

半熟気味に仕上げて、ケチャップをかける。

《すき》

そう文字を書こうとして。

少し恥ずかしくなってやめた。

「……なにしてるんだろ私」

一人で照れてしまう。

時計を見る。

21時を少し過ぎていた。

そろそろかな。

そう思った瞬間。

ガチャ、と玄関の音がした。

私は反射的に顔を上げる。

「……っ」

胸が、少し跳ねる。

リビングの扉が開く。

黒いキャップを脱ぎながら、陽貴くんが入ってきた。

「ただいま」

少し疲れた声。

でも私を見た瞬間、表情がふわっと緩む。

その顔を見るだけで。

“待ってた”って気持ちが一気に溢れてしまう。

私はキッチンから顔を出した。

「おかえり」

その瞬間。

陽貴くんが、ぴたりと止まる。

「……やば」

「え?」

「久しぶりの紗凪のおかえりの破壊力」

私は思わず笑ってしまう。

「なにそれ」

すると。

陽貴くんが靴もちゃんと脱がないまま、まっすぐこっちへ来た。

「ちょ、陽貴くん」

次の瞬間。

ぎゅうっと抱きしめられる。

「……っ」

仕事終わりの少し冷えた身体。

香水と外の空気が混ざった匂い。

私は自然と、その背中へ腕を回していた。

陽貴くんが、肩へ顔を埋める。

「……疲れた」

ぽつりと落ちた本音。

私は思わず笑ってしまう。

「お疲れさま」

そう言いながら、背中を優しく撫でる。

すると陽貴くんが、小さく息を吐いた。

「紗凪いるだけで回復する」

「ほんと?」

「うん」

その声が、あまりにも安心しきっていて。

胸がきゅっとなる。

私はそっと髪を撫でた。

「ご飯できてるよ」

すると陽貴くんが顔を上げる。

「オムライス」

その瞬間。

目が一気に輝いた。

「好き」

「まだ食べてないよ?」

「もう好き」

即答。

私は吹き出してしまう。

陽貴くんは、私を抱きしめたままキッチンを覗き込む。

「うわ、ほんとにオムライスだ」

「だから言ったじゃん」

「紗凪のオムライス半年ぶり……」

大げさなくらい感動してる。

私は苦笑しながら、その胸を軽く押した。

「はいはい、着替えて手洗って」

「えー」

「だめ」

「紗凪冷たい」

「ご飯冷めます」

そう言うと。

陽貴くんが、名残惜しそうにもう一度ぎゅっと抱きしめる。

「……あとでいっぱいくっつく」

耳元で囁かれる。

私は一気に顔が熱くなった。

「っ……早く手洗ってきて!」

その反応を見て。

陽貴くんが、楽しそうに笑った。
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