トップアイドルは白衣の天使に恋をする-second-
ある日の休日。

奇跡みたいに、私たちのオフが重なった。

ここ最近は、本当に忙しかった。

私は大阪行きに向けた引き継ぎやフライト対応。

陽貴くんはドラマ撮影に、全国ツアーの準備。

一緒に暮らしていても、すれ違う日だって少なくない。

朝、寝顔だけ見て仕事へ行く日もあれば。

深夜、ソファで眠る陽貴くんへ毛布をかけるだけの日もあった。

だからこそ。

「今度のオフ、どっか行こうか」

そう言われた時、私は驚くくらい嬉しかった。

——2人で朝から出かけるなんて、いつぶりだろう。

私は朝からずっとそわそわしていた。

クローゼットの前で何着も服を合わせて。

鏡の前で髪を巻き直して。

メイクも、いつもより少しだけ丁寧にする。

普段は仕事柄、ほとんどナチュラルメイクばかりだから。

こうして“デートのために準備する時間”自体が久しぶりだった。

……なんか、初デートみたい。

そんなことを思いながら、小さく笑ってしまう。

すると背後から、ふわっと腕が回された。

「可愛い」

「っ……!」

驚いて鏡を見ると、陽貴くんが後ろから抱きついていた。

まだラフな部屋着姿。

髪も少し寝癖が残っているのに、それすら絵になるからずるい。

「びっくりした……」

「紗凪、ずっと鏡と戦ってるから」

くすっと笑う声。

私は少しだけ頬を膨らませた。

「だって、久しぶりにちゃんとお出かけするし……」

そう言うと。

陽貴くんが鏡越しに目を細めた。

「楽しみにしてくれてた?」

その聞き方が、少し嬉しそうで。

私は観念したみたいに小さく頷く。

「……してた」

すると。

陽貴くんが本当に嬉しそうに笑った。

「俺も」

そのまま肩へ顔を埋めてくる。

「今日は紗凪、独り占めできる」

「いつも会ってるじゃん」

「会ってるのと、ちゃんとデートするのは別」

その言い方がなんだか可愛くて、思わず笑う。

私は軽く振り返る。

「で、今日はどこ行くの?」

そう聞くと。

陽貴くんがにやっと笑った。

「内緒」

「えぇ?」

「せっかくだから、ちゃんとデートっぽいことしたいなって思って」

「今日は全部、俺に任せて」

そう言いながら、陽貴くんが私の手を取る。

長くて綺麗な指。

その手の温かさに、胸が少し高鳴る。

トップアイドルの佐野陽貴。

普段は人前に立つ仕事だから、自由に外を歩くことだって簡単じゃない。

だからこそ。

こうして“普通の恋人”みたいな時間を過ごせるのは、すごく特別だった。

陽貴くんが帽子とマスクをつけながら振り返る。

「準備できた?」

「うん」

「じゃあ行こっか」

差し出された手を、私はそっと握る。

その瞬間。

陽貴くんが少しだけ優しく笑った。

忙しくて。

会えない時間も多くて。

大阪へ行く日も近づいている。

それでも今は。

ただ、この時間を大事にしたかった。

——今日が、忘れられない一日になりますように。

そんなことを思いながら、私は陽貴くんの隣へ並んだ。
< 45 / 242 >

この作品をシェア

pagetop